ダーティーホワイトエルブズ ~現代に転移して魔物退治人となった魔力ゼロのエルフは誓う。クズ野郎で転生チートスキル【主人公属性】を持つ弟に死を、と~
第64話 ─ あなたはまだ謎に包まれたまま ─…ある男の独白
第64話 ─ あなたはまだ謎に包まれたまま ─…ある男の独白
「俺達にも分かんねえんだよ。お嬢様は最近あからさまに俺達も遠ざけてる。だから俺達ですら、お嬢様や“騎士団”の動向が掴めてないのが正直なところだ」
「俺との繋がりがバレたか?」
「うーん、可能性はゼロじゃないだろうが、多分違う。お嬢様の性格なら、バレたら真っ先に俺達を呼びつけて、事の次第を問い詰めようとするはずだ」
「そうか、言われてみれば確かにそうだな。という事は、アンタ達二人以外に嬢ちゃんのお気に入りが出来た可能性が高いか」
「だろうな」
嬢ちゃんの側近のうちの、バフと違うもう一人、クラガン・モアはアッサリと認めた。
バフとクラガンは脳筋に見えるし、彼等自身、普段からそう見えるように振る舞っている。しかし曲がりなりにも幹部の側近をしている人物だ。
情報収集能力や分析能力、私情を抑えて物事を運ぶ能力はかなり優秀なのだ。
でなければ、あのシャーロット嬢ちゃんのサポートとして側近をやっていられない。
しかし、こいつら二人を遠ざけるとは。
シャーロット嬢ちゃんの派閥が、何者かのチート能力者を引き入れたのはほぼ確定だな。
そしてエヴァンから聞いた情報の裏を取るべく、アイラの事を聞いてみた。
「こちらのメンバーのアイラはどうだ? そっちの耳に何か入っているか?」
「多分、オマエと似たようなレベルでしか知らないと思う。オマエん所のアイラが、お嬢様のグループへコンタクトを取ってるのを見た人がいる、って噂に聞いたぐらいだな」
「そうか」
こいつらをして、ここまで情報が入ってこないのは異常だ。
という事は、だ。シャーロット嬢ちゃんについた連中は、相当ヤバい事を企んでる可能性が極めて高いって事だな。
その企みが何なのか……。シャーロット嬢ちゃんの場合は単純だ。権力を握ってふんぞり返りたいだけだろう。それでも充分過ぎるほど迷惑だが。
「なんか嫌な空気だ。オマエもそれを感じてるから、慌てて俺のところへ来たんだろうけどな」
「ああ」
「自分のヘマで干されるのはまだ良いんだ。だけど何も分からないのに、いつの間にか干されてるのは納得いかないよな」
「全くだ」
自分は悪くないのに、何故か自分が悪い事にされる……か。
向こうの世界の状況を思い出すな。ミトラはこの世界には居ないというのに。
「そういえば、臨時で幹部会が開かれるらしい。お前んとこのベイゼルに確認しに行った方がいいんじゃないか?」
「そうか、ありがとう」
クラガンは軽く笑って手を振った。
「もうこんな程度ですら確定情報が掴めなくなってるけどな」
「俺にとっては、それだけでも有難い話さ。また今度バーボンでも奢るよ」
「じゃあ今度は七面鳥の高めのヤツでも頼もうかね」
「へいへい」
それを最後にクラガンは俺に背を向けて去っていく。右手を上げて、手の平を軽く振りながら。
俺はため息をついて、ベイゼルの元へ向かった。
*****
“騎士団”所有のとある建物の会議室。
だだっ広い空間に机が丸く並べてあり、机に座る者は円の中心に向かっている。
座る者は、組織の幹部。
それ故に、見た目のそれなりに豪華な机が準備されている。
これ運ぶの重かったんだぜ?
下っ端の苦労、分かってくれてるのかね。
まぁもっとも、俺を含めてそれを表情に出す奴はこの場には居ないが。
そう思いながら俺は、幹部の後ろに控えている連中を見渡した。
みんな一緒に机を運んだ連中だ。
机の重さに文句を垂れながら、抜け目なくついでにお互い情報交換し合ったっけ。
幹部の後ろに控えるような人物だから、それぐらいは出来る奴らばかりだ。
俺? そんな海千山千の連中とマトモに渡り合える訳がないじゃないか。
あの母親に育てられたんだ。他人とコミュニケーションをとるのが少し苦手なのさ、俺。
せいぜい目の前の相手から、どの幹部同士が仲が良いか悪いかとか、大まかな所属チームの評判とかを聞くぐらいだ。
あとは、そうしながら、他の連中の話にも聞き耳を立てているぐらいかな。
そうしていると、相棒のクラガン・モアを連れたバフが俺に話しかけてきた。……というより絡んできた、と言った方が正確か。
表向きは仲が悪い事になってるからな。
「よう、そこにいるのはベイゼルの腰巾着じゃねえか。いつもながら新参者がどうやって取り入ったかは不思議だが、ご機嫌取りの上手さで成り上がりやがって気に食わねえ。今日は覚悟しとけよ」
「覚悟しとけよ」……やはりまた物資補給の絡みで、圧力がこちらにかかりそうか。
「臆病者のくせに」とか「ビビって震えてろよ」あたりの符牒を聞きたいところだったが、人生ままならないものだ。
ん? 俺の場合は「人」生で良いのかな? エルフ生?
そうこうしているうちに、会議が始まる。
机を円形に並べたのは、もちろん円卓を意識してのことだ。
円卓につく者は立場の上下なく、対等な関係で自由に発言していこう。
確か、元々の円卓の意義とはそんな感じだったと思う。
しかし団長の席は窓際の、後光が背後からさすような明るい席と決まっている。
その対面にベイゼルと俺が居る時点で、立場の上下が発生してしまっているも同然だ。
なので、残念ながらこの場での円卓の意義は無くなっていると思う。
やがて上座を除いた全ての席に幹部が座り終わり、その後ろに俺を含めた付き人が立つ。
付き人は殆どがこの世界の人間で、俺のような異世界組は、この場にはあと一人か二人だ。
「では団長が来るまでに雑務報告を」
そうしてまずは
どこそこに悪魔が発生しそうだとか地元のギャングと小競り合いが起こりかけたとか。
小さくて細かいけれども、放置もしておけない問題も意外と多い。
しかし、そうこうしているうちに進行役の人間が、この場の雰囲気を断ち切るように声をあげた。
「団長が来られました」
会議室に入ってくる車椅子の初老の女性。
以前に会った時に比べて、幾分覇気が衰えた気がするが、その目はまだまだ聡明な光を湛えたまま。
“騎士団”を作り上げた団長その人だ。
たとえそれが、お伽話の騎士道物語に憧れた少女の夢だったとしても、彼女が行なった偉業には何も関係ない。
だがその彼女の車椅子を押すのは──。
──嬢ちゃん!?
慣れない手つきで団長の車椅子をよたよたと押している、シャーロット嬢ちゃん。
部屋の入り口では、普段団長の世話をしているであろう女性が、オロオロしながら団長を見つめている。
シャーロット嬢ちゃんが無理矢理にあの人と代わったな。
ということは、この集まりはお嬢ちゃん絡みの何かがあるのか。
バフが示唆したように、物資の補給がこれ以上無くなれば俺のチームは全く動かなくなる。……干されるのだ。
思わずベイゼルとお互い渋面を作って、顔を合わせた。
嬢ちゃんは上座の団長席に車椅子をつけると、その
彼女の後ろにバフとクラガンが更に控える。
シャーロット嬢ちゃんが口を開いた。
「幹部の皆様、私が招集をかけたこの幹部会に参加いただき感謝致しますわ」
『私が』!? 聞いてないぞそんな事!
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