第57話 ─ 僕らの出会い ─…ある男の独白
「どうだい、何か分かることはありそうかい?」
潰された町村のリストと睨めっこしている俺に、ビッグママが訊ねる。
俺はすぐに返答した。残念ながら返答できてしまった。
「俺が以前に訪問した……反主流派の穏健派支持を求めた町村を中心にやられてる。最初はそうではない所も混じってバラけているが、新しくなるほど確実だ」
そう言いながら俺は、リストの一番新しい部分で手を止めた。
あの、娘が堕天使悪魔になったアーミッシュの村……。
俺は、何とも言えない黒いモヤつきを胸に抱えて、目を閉じた。
「ここは……俺を、俺の所属する派閥を明確に支持する事を表明してくれた村だ」
そして続けて推測を彼らに述べた。
「あくまで俺の推測だが……主流派の連中の誰かが、俺の派閥を含めた他派閥の拠点を潰して回っている。そしてアンタ達にもキナ臭い話が聞こえてるという事は、そいつは政治的野心を持って武力をアピールしているな」
ここから先は、できたらその可能性は考えたくなかった。
しかし、物事は出来るだけ最悪を想定していた方が生き残り易い。
「……その武力は、俺が気付かないということは、恐らく少人数または一個人。それも
その俺の言葉の後をバローロが引き継いで話す。
「つまり貴様の仕業ではないが、貴様に類する個人もしくは少人数集団を、最近その主流派とやらは手に入れたということか」
「だろうな」
「そいつ等の情報は?」
「俺が知りたいぐらいだよ」
ビッグママが俺に言ってきた。
「ということは、ますますお前さんが私達に協力して、情報やなんかを流して貰う事が大事になるねえ」
「分かってるさ。だが俺の予想通りだとすると、アンタ達にも協力してもらう事にもなるかもしれん。一蓮托生というヤツだ」
「ま、それは仕方無いね。黙ってればいずれ潰される対象に、遠からずなるだろうしね」
「生き残るために、仲間のために、情報が欲しい力が欲しい、な。ビッグママ、その刀鍛冶の処へはいつ行ける?」
「ママで良いよ。そうだね、もうそろそろ山登りの道具が届く頃だと思うよ」
「えらく辺鄙な処へ行くんだな」
「ナラケン南部の山地の、結界が張ってる山だからね。特殊なルートで入らないと弾かれるんだ。……そいつは変わり者なんだよ」
*****
「ふむ。話を聞いてる限り、お前さんの弟は“主人公属性”を持ってたんだねぇ」
目的地の山への移動中、車内での会話の事だ。
どうやら近くまでは自動車を出して送迎してくれるらしい。
「“主人公属性”?」
思わず聞き返したが、同時に腹にストンと落ちて収まる所に収まった納得感を感じた。
「そ。まるで物語の主人公のように、物事が順調に運ぶ強運の持ち主の事さ。何となく運が良いとかじゃなく、明確に本人に『貴方は“主人公属性”を持ってます』って分かるみたいだよ」
「
「どうもそうみたいだねぇ」
アイツが……ミトラが主人公だと?
ならば俺の苦しみもアイツの傍若無人も、全てが決定された運命だというのか?
パンチェッタが虐待され自死を選ぶまで追い込まれる事も?
リッシュさん達が捨て石同然に、騙し討ち同然に殺された事も?
フェットチーネが死んだ事も!?
皆がミトラの横暴をいつも擁護していた謎は、確かに納得いった。
だが、リッシュさん達が……フェットチーネが死ななければならなかった理由にはならない。ならせもしない。
「しかしお前さんの話を信じるならば──十中八九本当だろうけどね──お前さんが持ってる魔物使いの能力は、恐らく弟も似た能力を持ってた可能性が高いね」
「……! そうか。じゃあ何でアイツは向こうの世界で使わなかったんだ?」
「魔物を仲間に引き入れて初めて機能する能力だからね。面倒だから使う必要が無かったか、もしくは……」
「……もしくは?」
「お前さんとは、何か能力使用の条件が違ったのかもしれないね」
「…………」
「ま、お前さんが
「そうか」
「それに、アンタの魔物を使役する能力そのものが、チートみたいなモンだからね。大事にその能力を磨きなよ」
「言われなくとも、分かってるさ」
そして俺は、そもそものこの
──ロングモーンとの出会いを。
*****
あれはこの世界に飛ばされた直後、
食糧が無い状態でこの世界に放り出された俺は、すぐに仲間を探すどころか空腹で動く事すら大変な状態におちいった。
確かにエルフの村でも、俺に食糧が回らない事はしょっちゅうで、腹を空かせた状態は当時の俺の、通常の日常。
だが最悪、村の畑から農作物を拝借して、飢えをしのぐ道が残っていた。
しかしこの森にはそんな農作物さえ存在しない。
そんなある時、空腹で
俺は聞こえる水の音に引き寄せられるように、
やがて小さいけれども、澄んだ水を湛えた泉のある僅かな大きさの広場に出てきた。
食糧もそうだが、水もろくに飲めていなかった俺は、慌てて泉に駆け寄り水をすくうと喉の渇きを癒す事に集中した。
そんな状態だったからだろうか、周囲への警戒が俺はできていなかった。
「貴殿は……あの時に
野太い声を掛けられて、そちらへ顔を向けた俺は驚愕した。
そこには、ついぞ先日に死闘を繰り広げた牛頭の魔物が、ふんぞり返って座っていたからだ。
……いや。
魔物は、ふんぞり返っているのではなかった。
起き上がる力も無い程に、こいつは体力が消耗しているのだった。
よく見たら、座るというよりも仰向けに倒れこむようにしているのを、木々が支えて辛うじて上半身が少し起きている状態。
そういえば、この魔物の身体は焼け焦げだらけでボロボロだ。
俺はフラつく身体を抑えながら剣を抜き、魔物に攻撃体制をとる。
だが魔物は俺に覇気なく話す。
「そう構えずとも良い。あの場を守ること叶わぬ身に落ちたとなれば、もはや貴殿と敵対する意味も無い」
そして魔物は俺に懇願するように続ける。
「すまぬが水を頂けぬか。
俺は少し迷ったのだが、何故だかこの魔物を憎みきれない想いが心を支配していた。
ため息をついて俺はマントを外し、自分のバカさ加減に呆れながらマントに水を溜めて、魔物の口まで水を運んだ。
当然、途中で大半が漏れ溢れてしまうが、他に袋になる物を何も持っていないのだから、仕方がない。
俺は力の入らぬ足に何度も舌打ちしながら、泉と魔物の身体を往復する。
やがて魔物が、信じられないほど穏やかな声音で再び俺に話しかけた。
「すまぬ、ひと心地ついた。礼と言っては何だが、この周囲には口に出来そうな木の実がいくつかあるようだ。探してみる価値はあると思うが」
「そうか、助かる」
素直に礼を口にした。
その後に言われたままとにかく探して、いくつか木の実を見つけたが、はたと困った。
見たこともない植物が多くて、毒のある物かどうかが分からない。
とりあえず、僅かに虫食いのある実を選び、少し舐めて口や身体の様子を見る。
幸い、毒のある実は無かった。
しかしここは何処なのだろうか。
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