ダーティーホワイトエルブズ ~現代に転移して魔物退治人となった魔力ゼロのエルフは誓う。クズ野郎で転生チートスキル【主人公属性】を持つ弟に死を、と~

きさまる

第一章 ダーティーエルフ

第00話 とある転生者の危機

 その場に響き渡る絶叫が自分のものだとは、ついぞミトラは気付かなかった。

 

 地面に転がる彼の胸に、突き立つ黒い魔剣。

 それが己の魂を吸い上げている恐怖と苦痛。

 それ以外に何も考えられなかったから。

 


 ――俺は無敵の“転生者”だぞ! なぜこんな目に遭わなけりゃならない!?

 


 そう、彼は日本で事故死した後に異世界へと転生した者。

 数多あまたの「チート能力」を授けられた者。

 しかしその「能力」が作動していない事に思いを巡らす余裕は、今のミトラには無かった。

 

 

 彼の「無敵」を支える数々の「チート能力」が発動していない事に。

 その中でも根幹中の根幹である、「主人公属性」と表示されている常時発動パッシブ能力が発動していない事に。

 

 ミトラに剣を突き立てた「男」が何かをしたのか、それともチート能力が発動しない条件が揃っていたのか。



 主人公属性……それは文字通り、まるで物語の主人公のような都合の良い展開が起きる能力。

 転生した異世界で、ミトラが何となく生きていても無双の活躍が出来た理由。

 生まれ変わってから、あまりにも当たり前に存在している、発動し続けている能力。

 ゆえに、それが作動をしているか確認する事など考えもしなかった。


 痛みも無いのに、自分の腕の存在を疑う者などいない。


 


 ミトラは、いつの間にか涙を流していた。

 その自分のにじむ視界に、この状況を引き起こした張本人を捉える。

 

 は、ミトラに向けて拳銃の銃口を向けていた。

 は、全く油断を感じさせない態度で何かを呟いていた。

 そしての表情を見たミトラは、思わず恐怖を覚えた。



 怒り、悲しみ、疲れ、後悔――。

 ありとあらゆる感情が混ざったような、また、ありとあらゆる感情が削ぎ落とされたような表情。

 

 いつしかミトラは、その「男」の表情にこそ恐怖していた。

 胸の魔剣に魂を喰い尽くされる事よりも。

 彼に向けられた微動だにしない銃口よりも。

 

 だが恐怖している自分に、気が付く事も無かった。

 今まで通りに。


 

 この「男」こそは……。




 そしてミトラは思い返す。

 己の胸に、魂を喰らう地獄の魔剣が突き立てられる、その少し前の出来事を――。

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