第43話 「本気ィトークウィメン☆」その3…えんじょい☆ざ『異世界日本』

「ところで、その旦那さんってどんな方だったんですか?」


 食べ終わって、ひと心地ついたときに、ブランちゃんが言った。


「多芸多才なひとでしたね。料理以外にも、剣も弓も狩りも索敵斥候も気配を消した尾行も、色んな事が出来るヒトでした。……色んな事が出来ないとどうしようもない環境で育ったって言うてましたけど」


「どういうことですか?」


「魔法が使えへんかったから、一族にマトモに扱って貰えんかったらしいですね」


「え、なんで? たかが魔法が使えないぐらいで……魔法使いのエリートの家系やったとか?」


「多分そんな感じなんやろね。エルフで魔法が使えへんいうのは」


「「エルフ!?」」


「そうですよ?」


「あ〜……。確かにエルフで魔法が使えないなんて、ちょっと……なんていうか……」


 思わず私はそう漏らした。


「やっぱし……そういうもの、なんか……」


 と、ちょっと複雑そうな表情のフェットチーネおかん。


「あ、いやゴメンなさいそういう意味じゃ……。えっと、だから旦那さんはそれ以外の事を何でも身に付けて補っていたんだ?」


「せやね。彼の母親もかなりプライドの高い女性みたいやったし、相当イジメまがいの教育を受けたみたい。弟は逆にエルフ史上最高の魔力を持ってたみたいやけど」


「うわ〜。性格歪んでそう……」


「失礼な! 旦那はエルフの村を飛び出したし、人間の農村に居た神父さんが、そこら辺保護して育て直したみたいやし!」


「ヒューヒュー! そんな風に怒るなんて、旦那さんに今でも心底からラブラブなんやね〜! 一途いっちず~!」


 あ、フェットチーネさんが顔真っ赤にして俯いちゃった。

 素直な反応が、良いではないか良いではないか。


 と思ったら真っ赤な顔のまま、面をあげて私達に聞き返してきた。


「え、えーと……そ、それはそうと殿木部さんの本名はブランなんですよね? 『でんき』って何なんですか?」


 ちなみにフェットチーネさんが笛藤ふえとう 智恵ちえと呼ばれたがらないのは、笛藤がフェットに似てるからだと言っていた。

 その理由が今まで分からなかったけど、今回の話を聞いて何となく理解した。


 多分、フェットは旦那さん専用の呼び方なんやろね。


 フェットチーネおかんに聞かれて、ブランちゃんが気まずそうに答える。

 答えを探すようにあらぬ所を見つめながら、頬っぺを人差し指でポリポリ掻いて。


「あー……。えっと、私の元の世界では闇の反逆軍団っていうのが幅を利かせてまして。で、その四天王と呼ばれる人達の中に、紅一点のダークエルフで『雷帝』って呼ばれてるカッコいい女性がいるんです」


「あー、その人に憧れて雷系の魔法頑張ったんや」


「うん。でもあんまり強力なのが使えなくて……村の人に、電気が要りようになった時なんかに、便利に使われる存在になってしもて……」


「ああ、発電機ブラン」


「うわあぁーん!!」


 あああ、言っちゃった……。私、言わずに堪えていたのに。

 ブランちゃんが落ち込んで泣いちゃった。

 おかんが慌てて慰めている。


「ご、ごめんなさい。もしかして殿木部さんって呼ばれるのも嫌やった? せやったら次から蘭ちゃんかブランちゃんって呼ぶけど、どっちしよ?」


「蘭やと、見た目は子供で中身が大人の名探偵がやって来て、殺人事件起こしそうやしブランで良いです」


「???」


分かる、分かるよ私には! ちょび髭のオッサンか居なかったら手近な大人が眠ってしまって、寝言で事件の真相を当てるのよね!?

そしてその周囲には、二十年経っても成長しない子供達が探偵の周りに居るのよね!!


……と、ここでフェットチーネさんが時計を見て、自身の退座を告げた。


「そろそろ仕事行かなあかんし、私はこれで失礼すんな?」


そう言って、彼女は自分のバッグから飴の袋を取り出して、飴をひと粒口に入れた。


「うわー! それすると一気に大阪のオバチャン臭くなるよ、フェットチーネさん!」


「でも飴ちゃん美味しいやん? ずっと甘味を感じてられるし」


 ああ〜気持ちはすっっっごく良く分かる。

 向こうの世界じゃ甘味料って乏しかったから、高級品で滅多に食べれなかったもんね。

 私もこの世界に来たばかりの時は一時期チョコレートに滅茶苦茶ハマったわぁ〜。


「二人とも食べる? 飴ちゃん」


「「お腹いっぱいやし、また今度で」」



*****



 フェットチーネおかんが、スーパーのパートに出かけてしばらく経ったあと、私は背伸びをして片付けを始めた。


「あ、クラムちゃんそろそろ夏期講習に行くの? じゃあ私もママの所へ行こうかな」


「うん。ブランちゃんも向こうの受付しながら続きやんの? タブレットで」


「そそ。最近は大きな事も起こってないから、出入りする人もおらんやろうしな。

 それよか、そろそろ来るんちゃう、ミトラのヤツが」


「いっつも行き帰りに着いてきてくれるから、なんか悪いわぁ」


「あー、いいのよ。『俺は荒事専門だからな』って言いながら毎日ブラブラしてんだから、アイツ。兄貴の方は色んな雑用を嫌な顔せんと引き受けとったのにな」


「ミトラさんにもお兄さん居たんや!?」


「そやで」


 その時、部屋のピンポンが鳴った。

 ブランちゃんがドアの穴から外を確認してドアを開ける。ミトラさんが入ってきた。


「来たぞ」


「おーす来たなミトラ。クラムちゃん、ウチ先に出るさかいな。鍵しめとってや」


「了解!」


「んじゃな、ミトラ。自分で豪語したみたいに、兄貴よりも役立つトコ見せェや」


「うるせえな。分かってる」


 ブランちゃんは私に手を振りながら、出て行った。

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