第21話 ─ 番外編『狂乱の宴』 ─…ある男の独白

──何故こんなことになったのか。


俺は、目の前の現実を直視することを諦め、焦点の合わない目をしながら、思考という名の現実逃避を行なっていた。


「さあさあどっちに賭ける!? 兄か弟か!?」


フェットさんノリノリで仕切ってますね。キャラ変わってませんか?


「兄」


「兄」


「兄」


「弟で」


「兄」


「もちろんミトラ様に決まってますわ!」


「わ、私も弟さんを応援します……」


「兄」


「私はもちろん旦那!」


次々に声があがる。つーか、一体なにを賭けるのか誰も何も言ってないんだけど!?

ノリか!? ノリなんだな!? ノリだと言ってくれ! ノリでもキツいけどな!!


リッシュさん達も満面の笑みで、完全にオモチャいじりモードに入ってるよ(泣)!


あ、弟のパーティーの女の子が一人、頭から煙を出して思考がショートしてる。こりゃ賭けどころじゃないな。


「はい、それでは棄権が一人発生しましたが、早速いってみようギャンブルスタート! ほら、二人共さっさとズボンを下げる!」


フェットさんノリノリで仕切ってますね! キャラ変わってませんか!?



*****



まあ発端は例の如くミトラが原因だ。俺はいつもそのとばっちりだ。

だが今までとの唯一の違いは、俺に全ての責任を負わせようとする人達ばかりが居る訳ではなかったこと。


今回ばかりは、その人達が味方かどうかは分からないけどな!



具体的に何が発端で原因だったのか?

決まっている。パンチェッタの時と同じだ!


今回の依頼で、2パーティー合同で黒の森の奥に向かう道中、ずっと弟がフェットを口説き続けてやがった事だよ!

俺がいくらガードしても、隙をみて俺に見せつけるように口説く。くたばりやがれクソッタレ!


口説き続けてればパンチェッタと同じ様に、いずれフェットも自分のモノに出来ると思い込んでいやがるんだろう。フェットの場合は元鞘モトサヤか。


まあ実際これまで他の女は、その通りに弟がモノにしてきたんだけどな。


正直、パンチェッタの前例を味わっている俺としては、内心気が気じゃなかったけど。

弟も多分それを分かっててやってたんだろう。ニタニタ笑いながら、えらく俺をチラチラ見てたしな。


リッシュさん達が弟を不愉快そうに見ていたのが、せめてもの救いだった。


「だから、私はもうアナタに何の興味もありません。興味を持てません。しつこいですよ」


「まあそう言うなって。一度試してみないと相性なんて分からないだろ? 絶対そこの軟弱亭主より満足できるって」


これが一般庶民の好みそうな……特に男連中が好みそうな艶話なら、フェットが弟の強引さに流されて、嫌いながらも男と女の関係になって……という三文芝居になったろう。


だが弟よ。フェットチーネ・ペンネリガーテは自力でお前の“力”から目覚めて逃げた女傑だ。そんな単純な展開になると思うなよ。


あ、フェットの目が完全に座った。ヤバイぞ、ミトラ。


「そこまで言うならアナタと私の旦那と! 二人を今ここで見比べて! どちらが私が満足出来そうなモノを持っているか、皆で判定してもらいましょう!!」


だがオレよ。フェットチーネ・ペンネリガーテは自力で弟の“力”から目覚めて逃げた女傑だ。そんな単純な展開になると思うなよ(泣)



*****



「ふーむ。二人は兄弟だけあって、こうして見る分にはほとんど同じに見えますなぁ」


と、キャンティさんが嬉しそうに品定めをする。俺はズボンを下ろし上着をたくし上げた状態で、空をボンヤリと眺めている。


あ〜。雲ってなんであんなにモコモコしているんだろ〜。触ったらフワフワ感が気持ちよさそうだぁ〜。


ふとチラっと弟を見ると、死んだ魚の目をした虚ろな顔で、俺と同じくズボン下ろして呆然としている。


俺が初めて見る顔だ。ざまあみろ。


「それでは引き分け……という事になりますの?」


「う〜ん。まあそうなるのかなぁ?」


いいぞラディッシュさん! これで地獄の拷問を終了させてくれ! 俺を解放させてくれ!


「だが諸君待って欲しい。男たるもの、勇者たるもの、いざという時に奮い立つ、奮い立てる事が必須条件なのではないか? そして奮い立った状態で判断しなければならないのではないか!?」


貴女はいったい何を言いだすんですか、フェットチーネさん。


「そう例えば、まずはこんな風にして、臨戦態勢になれるかどうかを見てみる」


そう言って、フェットは俺の右手を手に取ると自分の胸に押し付ける。


むにゅっ。


しまった、思わず反射的に指を動かしてしまった。

唐突に右手に柔らかい感触が伝わってくる。


あ、ヤバい反応してしまう!


「おっと、お兄さんの方が奮い立ってきましたね。これは弟くんが出遅れたか」


嫌ぁーっ! 頭では止めたいのに身体が勝手に反応しちゃうよぉ!! 見ないで!俺を見ないで!!


こうかは ばつぐんだ!!


……つーか、何をノリノリに実況してるんですか、キャンティさん!


「おいなんだお前ら、何をしている?……あっクソっ! 汚ねえぞ!! そんなの反則だ反則!!」


「常在戦場たる夫をいくさにすぐに送り出せるように手助けするのは、嫁たる私の当然の役目。文句があるなら、貴方もお仲間に助けてもらえばよろしいのではないですか?」


しれっとした顔で、弟の文句をそう言って受け流すフェット。


……フェットチーネ、恐ろしい子……!


「……チッ減らず口を……! おいお前たち、ちょっくら悪いが、助けてくんねーか?」


弟がそう言うと、アイツのハーレムパーティーのメンバーが慌てて寄ってきて、弟に身体を密着させ始めた。


「ふぅむ、奮い立ち具合が少々鈍くなってきましたね。仕方ありません。ではこうしましょう」


そう言って彼女は俺の右手を、自分の服の脇の所から中へ滑り込ませた。


あ、彼女は例の背中と脇がザックリ空いてる、青いパーティードレス状の格闘服を着てるんだよ。目のやり場に少し困るけどね。


うん、そのザックリ空いた脇の所から、俺の右手をね、スルっと……。


ああああああああああああ! 右手が! 右手に! フェットの胸の柔らかい感触が! 右手に直に感触が! ああああああああああああ! 手が勝手に動いてしまう! 止まらねええええ!! ああああああああああああ! 柔らかくて気持ちいいいいいい!!


こうかは ばつぐんだ!!


彼女の不意打ち連発で、俺はすっかりウブなガキのような反応しかできなくなっていた。


それを見てヒュウと口笛を鳴らすラディッシュさん。

いいぞもっとやれとベッコフさんとリッシュさんがはやし立てる。クソ! 覚えてろよ、筋肉ダルマコンビ!!

ジビエさんは生温かい目で見守ってくれている。モウユルシテ。


「おっとぉ、ドラゴンスレイヤーもなかなか頑張ってペースを上げているが、兄貴のラストスパートが凄い! 凄い! 凄い! あっという間に準備完了だぁ〜〜〜〜〜!!」


もうキャンティさんの実況が酷い! 酷い! 酷い! あっという間に泣きそうになっちゃったよ(泣) 僕もうおムコに行けない。


「さあ、ここまで奮い立った二人を見て皆さんに判断してもらいましょう! 私ことフェットチーネに相応しいのは、果たしてどっちだ⁉︎」


もうどっちでもいいよ。


「兄」


「兄」


「兄」


「兄」


「兄」


「ノーコメント」


「同じく」


「右に同じ」


「はい!と言う事で私を満足させてくれる、私に相応しい人は今の旦那という事で決定いたしました!皆さん拍手ー!!」


パチパチパチパチ。まばらな拍手がおこる。フェットは大きくガッツポーズ。


俺と弟は、何か大切なものをゴッソリと失った顔をしてズボンを履き直した。でも履いた後も前かがみになったままだけど。


ううう……。ヒトを奮い立たせてたかぶらせておいてそのまま放置って、ヒデえよくそっ。

フェットを連れ去ってそこら辺の繁みの影で昂りを鎮めてぇ彼女に鎮めてもらいてぇ。


黒の森の中は危ないからとても出来ないけどな(泣)!


フェットが嬉しそうに俺の隣に来た。ピトッという擬音が出そうなぐらい、俺にピッタリと密着してくれる。


フェットさんや、俺も嬉しいけど腰の曲がった俺の様子も考慮してくれんかのぅ。


まあせっかくなので、俺は彼女の腰に右手を回す。すると彼女は俺の右手を掴んで自分の胸の位置まで持ち上げた。

のみならず、俺の指を一本一本つまんで動かして、俺が胸を鷲掴みにしている状態に変更した。


……っておい!


フェットさんや、嬉しいけど腰の曲がった俺の様子も考慮してくれんかのぅ。

本当に連れ去って繁みの影で昂りを鎮めてもらっちゃうぞ。


そう思いながら、俺はフェットを見る。


彼女は、俺のそんなヨコシマな気持ちを、欠片も持たせないような満面の笑みを浮かべていた。


もうニッコニコよ、にっこにこ。


まるで極上の大好きなデザートを、心ゆくまで食べている時のような太陽の笑顔だ。

弟をやり込めた事が心の底から嬉しいって顔だ。

男を誘う時の顔じゃねえ。そしてここまでやっといて誘ってねえ(泣)



俺は泣きながら昂りに耐えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る