第8話

───こっからはお前の踏ん張りどころだぞ、ケツの穴ぎゅっと引き締めて自由掴んでこい、残ったアンデッド君達は任せとけ。


修復されて行く〈虚数階〉の天井を見上げて密かにエールを贈る。


彼が仮に炎魔人の攻撃によって命を落としていたとてその思いに寸分違わず変わりは無い。


〈虚数階〉の修復作業により会議の時間は見送りになった。


~ ~ ~ ~ ~


一方その頃、階層主の居なくなった第三階層〈亡者の園〉にて、何一つとして知らされていないアンデッド達は不安の中、葛藤していた。


「あ゛ぁあ(これから俺達ってどうなるんだろうな)」。


「あ゛ぇあ(んな事俺が知るかよ)」。


「あァ゛(ゾラさん無事出れたのだろうか)」。


「ぁあ゛ぁ(おい、ヤメロよ心配になるじゃねぇか)」


この後の自ず等の待遇について思い悩んでいた時だ。


───カツン………カツン……


雑な造りの石階段を足で蹴る音が第三階層内に響く。


さて仕事だ、迷宮に迷い込んだ冒険者達のお出ましだ。ゾラが居なくなったとてアンデッド達の仕事は変わらない。


宝を探しに来た冒険者達を皆で襲う、只それだけだ。


アンデッド等は各々の持ち場へとそそくさと戻る。

足音の主が現れるまでじっとその場に身を置いた。

一糸乱れぬ緊張状態の中、手から出た汗を裾で拭う。


着々と近付く足音、石階段から足をチラつかせた、そのタイミングで──



「「「あ゛ぁぁあぁ゛ぁぁあ !!」」」。


大量の亡者が呻き声を上げながらその者を襲う。



「───ワタシだよ!!」。


刹那──先頭のアンデッドがアーチを描く様に殴り飛ばされる。


「あ゛ぁあ(あ、あなたは……」


其処にいたのは第六階層〈岩石の間〉統括グリムゴーラ(グリゴラ)だった。


「あんた等は今日から私ン所とグレムリンの所で面倒を見る事になった、ビシバシ行くから覚悟しとくんだよ!!」。


ゾラの頼みを聞いたグリゴラは残ったアンデッド達を預かる約束をした。

早急にフェクトに申請をしグレムリンと半分ずつ面倒を見る事になったのだ。


「安心しな、あの子から話は聞いてるよ、最初は面倒なんて思ったもんだが、中々良い統率がとれてるじゃあないか、これもあの子の指導の賜物だね」。


アンデッド達の息のあった行動に感心の意を表していた。


「あ゛ぁぁ゛あ(あの、ゾラさんはどうなったんですか」。


必死に呻きを上げる亡者。グリゴラには何を言っているのか分からない──只、何を言わんとしているのかはなんとなく分かった。


「なんて言ってるのか分からないけどねぇ、あの子は大丈夫さ、あのタフネスさえあれば何処ででも生きていけるさね」。


グリムゴーラとアンデッド達はゾラの未来にエールを贈る。


~ ~ ~ ~ ~


───闇だ、只ひたすらの闇を見た。



身体は灰と化し砂埃と共に宙を舞う。


俺はこの事を完璧には表現出来ない。


だけど絶する程の衝動の中で、深淵よりもずっと暗い無限の闇の中、身を焼かれ、あるいは凍結され、延々と窒息する夢を観ているような。


想像してほしい。


もがいても、もがいても差し伸べられる手は無く、慈悲も無く、只ひたすらの絶望を終わることの無い絶望を。



上昇気流に乗り遺灰は天へと舞っていく。


風に吹かれ、雨に打たれ、それ等は徐々に姿を変える。


粒子並みに分解されたそれ等はお互いを引き寄せあった。


万年程、時が流れた様に体感し始める頃それは小石程の大きさにまで成長を遂げる。


眩い光が垣間見えた。


脈が波打つ感覚。血液が莫大な量の酸素を全身に運ぶ感覚。


物だったソレはその瞬間、生命を宿す。


小石程の塊を突発的な砂塵が覆い膨張し即時人間の形を形成した。


久しく感じぬ重力の重み、生命の重み、自重で足を挫く。


(痛ってってって。


長い夢を見ていたような……そんな感覚だ。


全身のありとあらゆる凝りを解す。


大きなあくびを朝日に一つ──


「───あっれ、俺の右腕何処行った?」


──呟いた。




1章〈完〉

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