真夏の救世主

みなづきあまね

真夏の救世主

気温36度。最近の日本はとかく暑い。盆休みシーズンに入り、職場には人もまばら。私はあえて休みをずらした。なるべく気温が上がりきらないうちに家を出た。


「おはようございまーす。」そっとドアを開け、涼しいオフィスに感謝。


あ・・・来てる。出張続きでしばらく姿を見なかった彼が仕事をしていた。


職場恋愛など、同じテリトリーでの恋愛は、人間関係はもちろん、作業に支障をきたすからしないように注意してきた。・・・のにも関わらず、私は今、3つ上の同僚に目が眩んでいる。


しばらく会わなければほとぼりも冷めるだろうと思っていたのに、こっそり彼を眺めたら、以前よりも格段にカッコよく見え、お手洗いに行った時、鏡の前で、「かっこよすぎて辛い!」と頭を抱えてしまった。


夏の日差しに晒され、日焼けした彼の顔は汚さなど微塵もなく、むしろキリッとした顔立ちをより引き立たせていた。


ある程度時間が経った頃、彼の席に近い同僚数人とあれこれ話をしていた時、内線が鳴った。彼が電話を取り、何かしら来客があったようで、その件について同僚含めて立ち話をしている中では、目を合わせて話が出来たけれど・・・普段は面と向かって話すのさえ難しいのである。


そんな私にプチ事件到来。


社内掲示板にだいぶ前に張り出したお知らせが期限を過ぎたことに気づき、数枚剥がしていた。しかし、最後の一枚の上辺が1番上に貼られており、太刀打ち出来ない!


そういえばこれを貼る時、頼んだ相手は180センチの同僚だったわ・・・。自分の選択ミスを恨みながら、部屋を覗く。あいにく女性ばかり。さすがに届きそうな人はいない。


仕方なく一か八か、私よりは背の高い後輩に頼んでみたが、


「うーん、無理ですね(笑)」


ですよね!まあ今すぐにって訳でもないから放置するかな、と思っていると、


「あそこの彼に頼んだら?多分今いる男性って一人だけだし、届くんじゃない?」


と、私が避けようとしていたアイデアをさらっと出してきた。まあ、普通そうなりますよね。


「やってくれるかな、こんなどうしようもない仕事・・・」


「絶対やってくれますって!」


後輩は私の冷や汗たらたらな心など露知らず、スキップでもしてるのかってくらい軽い足取りでドアに向かうと、早速彼を呼んだ。


しかし、あまりにコソコソっと声をかけたせいか、彼は気づかない。後輩に代わり、私は意を決して、もう少し大きめにコソコソっと呼んだ。


「先輩!あの、くだらない仕事・・・頼んでもいいですか?」


ドアの隙間からビクビクしながら尋ねると、彼は「いいですよ。」と言いながら立ち上がり、こちらに来た。


「前に貼った記事を剥がしたいんですけど、他の人に貼ってもらった関係で、高すぎて届かないんです。」


彼は掲示板を見るなり、


「あー、こういうことね。」


と言うと、画鋲に手を伸ばした。


「あ、さすが!届いた!」


後輩は歓喜の声を上げると、私達を置いてまた軽いステップで部屋に消えた。


「すみません、身長が足りなくて・・・」


彼の引き締まった腕と真剣な横顔を見つめつつ、緊張でいつも以上に恐縮しながら言葉を絞り出した。今思えば、謎すぎる謝罪。


彼は取った画鋲を1箇所にまとめ、折りたたんだ紙を私に渡した。


「はい。」

「ありがとうございます。」


そのあとに続ける言葉が見つからず、下手な真似するよりは黙っていようと、無言で彼の前を歩いた。それでも最後に一目近くで彼を見たくて、振り向いた。


「お仕事邪魔してしまい、すみませんでした。」


私は感謝の意は表したくて、笑顔で声をかけた。


「別に大丈夫ですよ。」


と、彼は軽く返してくれたが、目線は・・・合わしてくれず、左斜めに視線は揺いでいた。


そんなに私、嫌われてるの?!


やっぱ職場で恋なんかしなければ良かった!こんなんじゃ、まともに仕事に集中出来ないし。


うじうじしながら半日を過ごし、帰り道に親友に今日の出来事をLINEした。彼女曰く、


「えー、でも普通さ、男子は頼られたら嬉しくない?今回は周りが女子だらけで、消去法で選ばれた感あるけど(笑)俺しかやれない仕事ってなれば、嬉しいと思うけどなあ。目を合わせないのも、ただ単に女性慣れしてなくて、合わせられないだけじゃないの?」


というご判断。これが当たりなら、なんだか可愛くてにやけちゃうけど。


なんだかんだで私、職場恋愛の泥沼にハマりつつあります!

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真夏の救世主 みなづきあまね @soranomame

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