通夜振る舞いの時の話です

野口マッハ剛(ごう)

俺の話です

 先に言っておきます。

 今から話すことは症状の話です。医者は恐らくこれまでのことをしっかりとは把握していないでしょう。それでは本題に入ります。


 おじいちゃんが亡くなっての通夜振る舞いの時の話です。おばあちゃんは一年前に亡くなっていました。俺はいろいろと神経を使っています。お母さんが喪主です。

 通夜振る舞いで親戚の子どもたちが無邪気に料理を食べています。もちろん大人たちはお酒を飲みます。そして、おじいちゃんの生前の話に花が咲きます。ちなみに、俺は正面に座るおじさんとは会うのは2回目です。もちろん仲良くタバコを吸いに行くほどです。しかし、俺のとなりに座るおじさんは様子が少し違いました。笑う時に目が笑っていないのです。あとからお母さんから聞いた話だと、そのおじさんは40何年前かに一度だけ会って話したことがあるそうです。ただし、お母さんは最初は誰かわからなかったそうです。あとは、ここでは話せませんが、やはりいろいろな事情のある、笑う時に目が笑っていないおじさんなのでした。

 ビール瓶がどんどん開く中で、親戚である親子たちは帰っていきます。ただ、俺と仲のよいおじさんと、笑う時に目が笑っていないおじさんは残っています。あと喪主のお母さんも。その二人のおじさんは年が離れた兄弟だそうです。確か、十四つ離れているようです。仲のよいおじさんが兄です。

 確か、話が40何年前の思い出の話です。お母さん、仲のよいおじさん、笑う時に目が笑っていないおじさん、この三人でその思い出話をしている時です。お互いが記憶にズレが生じ、ちょっと俺は気まずい気分になりました。目が笑っていないおじさん、つまり弟さんがお兄さんに対してズバズバといろいろ言います。しまいには、俺と仲のよい方のおじさんが半分怒っていました。明日のお葬式には出ますと言ったそのおじさんのお見送りを俺はします。エレベーターに戻って、俺の意識が混濁としてきます、言っておきます、俺はお酒を一切飲んでいません。あと残っているのは、お母さんとおじさん(弟さん)と俺だけ。そこに声がします。厳密には俺の意識が途切れる前です。「かわるわ」と俺が言いました。

 そこから俺の意識は途切れ途切れで、笑う時に目が笑っていないおじさんと話しています。おかしいのです。俺の意識が飛び飛びになっています。何が起こっているのでしょうか?

 あとからお母さんに聞いた話ですと、俺は目が据わっていたようです。

 笑顔で俺がそのおじさんに「ジャンジャン飲んでくださいよ!」と、コップからあふれるぐらいにビールを注いでいたのをあとから俺は記憶を徐々に思い出しました。あとからお母さんが言うには、あれだけ話していたおじさんが低姿勢になったそうです。


 意識が混濁となった時に、俺の意識が飛ぶのは何回かはあります。驚くべきことに、その間の自分はちゃんと会話をしているようです。お母さんがあとから言うには「あなたが変わったのがはっきりとわかった」そうです。


 何かしらの危険意識が高まった時に、俺の意識が混濁とします。きっと、その時の俺はお母さんを守ろうとしたのでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

通夜振る舞いの時の話です 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る