第25話 緑埜航平「唸りの原因」
ヴゥーーーー、ヴゥーーーー
「ちょっと、誰か、ケータイ鳴ってんじゃないの?」
残念やけど胡桃沢、それは僕の
僕が唸ってる原因は
【唸りの原因①】
昨日の晩、帰宅した後に自分の部屋でいつもの「女々しいチェック」をした。
「なんでや!」
大声で叫んだらマルクが一瞬びくっとしたけど、そのあとすぐ、僕の顎をペロペロ舐めた。
自信はあった。自信を持つ根拠もあった。
せやのに。
10位
ランクダウンや……
ゼラチンマン戦では、結構活躍したはずや。
せやのに夜のニュースで、僕はほとんど映ってなかった。
ようあそこまで上手いこと、
ある意味感心するわ。
ニュースではいつの間にか
せやけど、悪いことしたな。
けど、自分で『淑女』を名乗るような痛いヤツや。
だいたい、自画自賛する名前を付けるもんに、ロクなヤツはおらへん。
『誠実ファイナンス』なんていう貸金業者があったら、怖くて借りられへんし。
「国内最高の評価!」って
『○×信用金庫』は……、まあ、それはええとして。
とにかく、「淑女」っちゅう言葉は
で、僕は、ランクダウンが原因で叫んだ……、わけやないっ!!
それよりも、こっちや!!
8位 ゼラチンマン(妖魔獣) 36,021票
いやいや、あいつ、なんも活躍してへんやんけ!
けど、イケメン好きの女とか、美人好きの男からの票を集めたらしい。
どうせ投票したんは、オッサンとかオバハンに決まってるけどな。
(※負け惜しみ)
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
ダルメシアンが二足歩行で近寄って来た。
正確に言うたら、ダルメシアンの着ぐるみ姿の胡桃沢や。
明らかに何かを怪しんでる顔や。
「さっきからケータイのバイブが鳴ってんのに、そのケータイが見つからないから、おかしいなって思って音源を辿ってみたら……」
胡桃沢は僕の口元を見て言うた。
ふん! どうやら、気付いたようや。
「ミドくん……、ケータイ食べた?」
「食うかっ! 雑食にもほどがあるやろ! 餓死寸前でも食わへんわ!」
「え? でも、ミドくんの口の中から音がしてんじゃん!」
「悩んどんねん! 考えとんねん! 唸っとんねん!!」
「あ、そういうことか。ま、どっちでもいいから、唸んのやめて! うるさいから!」
そうや。うるさいからや。
【唸りの原因②】
「ちょっと、コウちゃん、うるさいよ!?」
僕が叫んだせいで、妹の若葉が部屋に入ってきた。
若葉は僕のことを「コウちゃん」って呼ぶ。
マルクが若葉の足をペロペロ舐める。
マルクよ、若葉はブーツを長時間穿くタイプの女やぞ。
そうや! 妹でも女や!
腐っても鯛や!
ネズミでもミッ○ーマウスや!
若葉でも女子大生や!
若葉に相談してみよ。
ちゃうちゃう。どうやったら、
葉菜さんのことや。
「あんな、若葉。ちょっと相談に乗ってくれへん?」
そう言うたあとで、何を相談したらええか戸惑った。
今、教えてほしいことゆうたら、「どうやったら葉菜さんに会えるか」や。
けど、そんなこと訊いても、「知るか!」って言われんのがオチや。
「あのさ、コウちゃん。相談に乗ってほしかったらさ」
「なんや」
「なんか買ってあげるとかないの?」
「は? どういうことや」
「だから、カワイイ妹に服とかアクセとか、買ってあげようとか思わないの?」
「可愛い妹の場合には、買うたろと思うわな」
「やったーっ!! じゃあさ、若葉、欲しいバッグが……」
「意味わかれや!!」
若葉は、キョトンとした顔を見せやがった。
「可愛い妹には買うのに、お前に買わへんってコトは、お前が可愛いないってコトやろ!」
若葉はゆっくり頷いたあと、人差し指を立てた。
「それって、タマゴが先かニワトリが先かってコトじゃないの?」
「哲学的な話か?」
「だから、可愛くないからバッグを買ってあげないって言うけど、バッグを買ってあげるコトによって、可愛くなるかもしれないじゃん」
「ならへんかもしれへんやないか!」
「けど、なるかもしれないじゃん!」
「なんで俺がそんな、ハイリスク・ローリターンの
妹に対しては一人称が「俺」になる僕や。
「だいたい、
「出た! 誰のおかげで生活できてると思ってんだ! はい、昭和の親父ぃ」
「全然ちゃうやろ! 元々、俺にお前を養う義務はあらへんねん!」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
そんな不毛な喧嘩をしたあと、結局
ポペポペッ♪
スマホにメッセージが届いた。若葉からや。
「若葉、コレにする」っていうメッセージと、高級ブランドバッグの写真や。
スマホ画面を見てたら、また、二足歩行ダルメシアンがこっちに来た。
「ちょっと、ミドくん。やめてくんない?」
「は?」
「LINEの着信音みたいな唸り声!」
「できるか! わしゃ天才か!」
ツッコミのときには、一人称が「わしゃ」になることも多い僕や。
【唸りの原因③】
昨日は
用事を済ませた葉菜さんが、戻って来てるかもしれへんからや。
天才や!
喫茶店に向かう途中、『小江戸屋』の前で赤羽さんに
……けど。結局、喫茶店に葉菜さんはおらへんかった。
葉菜さんと連絡を取りたい!
キャバクラは辞めた言うてたから、待ち伏せもできへん。
ダルメシアン胡桃沢に、葉菜さんの連絡先を訊くっちゅう方法は既にやった。
けど……
「無理! そんな、どこの誰かもわかんないミドくんに、親友の個人情報を教えれるわけないじゃん!」
ミドくんやん! 国防省特殊警備隊のミドくんやん!
「ほな、学校の名前だけでも!!」
「絶対無理! 学校に来るつもりだよね! ホント! マジ、タピオカなんだけど!」
意味はわからんけど、怒ってるのはわかった。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
結局、自分でええ方法を考えるしかないわけや。
僕は、スマホでモーツアルトの音楽をかけた。
モーツアルトの音楽は、頭が良くなるらしい。
せやから、ええ案が浮かぶはずや。知らんけど。
俯いて考えてたら、視界に影が入ってきた。
顔を上げたら、そこにおったんは、二足歩行ダルメシアンや。
「ちょっと! 『ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調
「わしゃ天才か! ほんで、お前も天才か!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます