第2話 わんこのいる空間。
福岡空港へ降り立ち、押し寄せてくる車の中から、弥生さんに教えてもらった車の特徴を探す。
聞き覚えのある声と、初めてみる顔を自分の中で貼り合わせる。そそくさと車に乗った。
私の父親と同じくらいの年齢と思われる、初老の男性が車の中に居た。
彼、タケさんは、弥生さんの彼氏。
カウンセリングサービスに、タケさんも登録していたので、話をしたことはあったが、数える程だったので、ちょっと見知ってしまった。
空港から、弥生さんの家まで、のろのろ40分くらい。
ボロいよ、と言われたが、着いたらそこは小綺麗な一軒家だった。
あんっ、あんっ、あん!!
扉を開けると同時に、犬の甲高いなき声が耳をつく。
弥生さんの腕に載ってきた、グレーのほわほわした塊は、可愛らしいトイプードルだった。
"こんにちは"
にっこりとトイプーに笑いかける。
私たちはすぐに、仲良しになった。
私はアレルギーがあるのと、実家がマンションだったため、動物を飼ったことがなかった。
厳密に言えば、所謂ペットとして地位が確率されている犬猫とは無縁だった。
金魚、オタマジャクシ、ダンゴムシ、カタツムリ、カミキリムシ、蚕など、
魚や虫は飼ったことがあった。
が、犬は彼らと違って、感情のやり取りが出来る。そこが大きな違い。
新しいともだちは、弥生さんと私の間を交互に行き来した。
カウンセリングの仕事や家事で、弥生さんが忙しいときは私の方へ来た。
弥生さんは人気カウンセラーだったので、日中はずっと稼働しており、
仕事中は寝室に篭って扉を締め切っていた。
おかげで私たちは、一緒に遊ぶ時間がたくさんあった。
わんこは、私の持ってきたクマのぬいぐるみが気に入ったらしく、ソファかテーブルに置いておくと、首根っこに噛みつき、ブンブンと振り回して遊ぶのだった。
お気に入りのぬいぐるみだったので、初めのうちは取り上げていたが、何度も何度も繰り返すので、もういいや、という気持ちになり諦め、おかげでクマはすっかりヨダレまみれになった。
私が鬱っぽくなって、ソファにごろんとなっていると、わんこはとてとて、私の頭か背中の横まで上ってきて、
ころん、身体を丸めて一緒に寝てくれた。或いは、唇をベロベロ(ペロペロではなく) と舐めまわし、元気をくれたりした。
弥生さんが仕事を終えて、寝室から出てくると、歓声を上げて、甘えに行く。
タケさんには、あまり懐いていないようだった。わんこはオスなので、タケさんに弥生さんを取られるのが気に食わないのだ。
私はその頃、タバコを吸っていた。夜中に起きて、キッチンでタバコをふかしていると、タケさんもゴソッとやってきて、一緒にタバコを吸い、ボソボソと話をする夜が何度もあった。
私の寝ているソファか、弥生さんたちのいる寝室で寝ているわんこも目を覚まし、私の足元へ、くぅんくぅんと甘えるのであった。
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