HELLOworker

@coffeeboy

第1話 記憶との決別

何の変哲も無い


いつも通りのあぜ道


赤とんぼが田畑を巡回し


雲1つ無い宙を烏(からす)が舞う



オレンジ色の光が目に染みる


障害物の無い道の先を


到底 直視出来そうにない



心地いい声が耳に届く


「あのね 私、東京の大学に行こうと思ってるんだ」


「しばらく… ううん もう帰って来れないかもしれない…」


「…」


俺の横で長い艶のいい黒髪が揺れる




突然の告白、それは嬉しいもの、とは言いきれない


彼女の夢を叶えるため、その第1歩…


どうやら頭の固いオヤジさんが認めてくれたらしい


何度も相談された、


その度に一緒に悩んできた


しかし、それもあと数ヶ月で終わる………


別れるために努力してきた


その事実がよりリアルに突きつけられた


ようやく彼女の歯車が動き出す…



初恋の終わり、彼女の始まり



少しポエマーのようなことを考え雰囲気に合わない表情になる


………


フッとため息をついて選びに選んだ言葉を漏もらす


「そっか… 頑張れよ お前なら出来るから」



「うん…ありがと」


彼女の顔が曇もる


それが何故なのか 当時の俺には分からなかった


こいつには誰よりも喜んでいて欲しいのに



このオレンジ色の光の中になら溶けていけそうな気がした


嬉しさや悔しさ、何もかも、溶けていける、そうなって欲しい


何もかもドロドロに、それぐらいが馬鹿な俺には丁度いい



あの日以来上手く笑えなくなった気がする…


男の失恋は尾を引くと言うが 俺はどうやら重症のようだ、


何度も忘れようとしたが夕日を見る度に思い出す


あれから何年経ったと思ってる…



忘れよう、忘れよう、忘れよう


日課となっている昼寝をしよう


といっても昼ではなく夕方に寝てるので 正確には昼寝では無いのだろうが、そこは置いておこう


もう夕日は見ない


それぐらいしなければ

忘れることなど 出来るはずもないからだ



瞼を閉じて毛布に包くるまる


カーテンの無い我が家にはこうする他


オレンジ色の光をシャットアウトすることは出来ない



暗闇の中、意識が薄れる


明日になったら忘れているか、そんな淡い期待とは裏腹に、


白い背景の中にぼんやりとレナの姿が浮かぶ


また夢に彼女が出てきた、皆勤賞だぞ


もうやめてくれ…


そう叫んだ矢先


夢の中のレナが俺の身体を揺すった


「は?」


「あ…え?」


あまりにリアルな感覚…


触れられるはずの無い夢の中の人間に触られた


触られたその事実はこの男に一瞬の困惑をもたらした


しかし目の前の人間は

カケルが知っている人物像とは様相ようそうがまるで別人だ


ショートカットに少しパーマがかかっているというのか


ゆるふわ系の髪型、色は明るい金色に染められている


露出度の高い服、こんな物は初めて見た…


何度も見たキレイな顔立ち、華奢きゃしゃな体格


知っているものと知らないものが入り交じる


矛盾を具現化したような存在により


一層いっそう カケルの困惑の色は濃くなる



「お、おはよ あと久しぶり」


心地よい声が耳に届く

それと同時に自身への怒りにも似た後悔が湧き上がってくる


気持ちを堪らえ目の前の知人に恰も他人のように会釈した

演技には自信は無いがこの時だけは何故か上手くできた


目の前の女は少し戸惑った様子で話す


「あれ…忘れちゃったかな 私だよ 姫野レナ…」


やはり知ってる名前だ、名前は変わっていなかった…


少し安堵したが、やはり悔しさは拭ぐいきれない


「すっかり変わっちゃったから分かんないかな…あはは」


「あぁ 思い出したよ 久しぶり」


思い出した…か


忘れたことなんて無いだろ むしろ逆


忘れたかったのに…


まだ あの日の過あやまちが十字架を持って付きまとう


すっかり変わってしまった…


俺がそばに居れば…


ふと我に戻ると苦笑いした彼女が首を傾かしげている


何か喋っていたみたいだがあの頃のように聞く気にはなれない


夢現ゆめうつつなまま

ある種の悪夢で直ぐに覚めるものだと思っていた


その時


背後から強く殴られた

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