2 見知らぬ庭

 見知らぬ庭


 プロローグ


 僕はいらない人間なのかな?


 本編

 

 ……やっと、会えたね。


 その日、僕は不思議な場所に迷い込んだ。

 それは僕のよく知っているようで、よく知らない場所だった。


 それはとても不思議な感覚だった。

 僕は『透明な存在』となってそこにいた。


 よく知っているはずなのに、知らない家と、よく知っているはずなのに知らない庭がそこにはあった。

 僕は雨降りの中で、道路の向こう側から、そんなよく知らない場所に立って、よく知らない家のことをずっと見ていた。


 やがて、僕はそのよく知らない家に行ってみることにした。

 よく知らないとは言っても、その家はすごく僕の知っている家によく似ていた。だから僕は、その家に惹かれて、その家まで行って、そこで雨宿りをさせてもらうことにしたのだ。


 しかし、その家の前まで行っても玄関のドアは開かなかった。鍵がかかっていたのだ。がちゃがちゃと二回、ドアを引いたところで家の中に入ることを諦めた僕は仕方なく家の玄関のところで、その冷たい雨をしのぐことにした。

 僕は玄関のドアの横に体育座りで座って、そこからずっと、一人でざー、と言う雨降りの音を聞きながら、灰色の空と、空から降る雨の風景をずっと見ていた。


 すると、やがてがちゃという音がして、玄関のドアが開いた。


 そこから出てきたのは、僕のよく知っているようで、僕のよく知らない人だった。その人は僕には気がついていないようで、雨降りの空を見て、顔をしかめてから、「お母さん。ちょっと出てくるね。留守番お願いね」と言って、赤い傘をさして雨降りの町の中に出かけて行った。

 その人は玄関のドアに鍵をかけて行かなかった。

 なので僕は、そのドアを開けて、家の中に入り、そこでまた雨宿りの続きをさせてもらうことにした。


 家の中は僕のよく知っているようで、やっぱり僕のよく知らない場所だった。


 家の中は生活感があり、おかってのほうから、なにかの料理をする音が聞こえた。それになんだかすごくいい匂いがした。

 僕はお腹が減っていたから、その匂いにつられて、おかってまで行ってみることにした。するとそこには、やっぱり僕のよく知っているようで、僕のよく知らない人がいた。

「お母さん」

 僕はその人の背中に向かってそう言った。

  

 でも、その人は、僕の声が聞こえないようで、僕のほうを振り返ってはくれなかった。(まるで、いつもの日常のように)


 見知らぬ庭 終わり

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