刀燁のシュヴァリエ
九頭七尾(くずしちお)
プロローグ
『とっとと始末しちゃって。実験は失敗。こいつら、失敗作のゴミ屑だから』
軽々しい口調で放たれた死刑宣告。
終りは突然、残酷に、呆気なく訪れた。
悲鳴。絶叫。阿鼻叫喚。轟く銃声が血飛沫を舞わせ、はし疾る白刃が無残な肉片を生む。
腕が四本あった少年も、口部が耳まで裂けていた少女も、額に眼があった幼子も。その施設で作られた子供たちは次々と処分されていった。何の慈悲も容赦も酌量もなく、家畜や実験動物、あるいは物や道具のように。
気付くと少年は息を荒らげ真冬の夜道を駆けていた。
闇空から雪が降りしきり、行く道は白く染まりつつあった。肌着一枚しか纏っておらず、刺すような冷気が痛い。足は素足で、とうに地を踏む感覚は失われている。
唯一の温もりと言えば、右手で固く握り締めている少女の手。
お前たちは先に逃げろ! そう叫んだ直後に銃弾を全身に浴びたお兄さんも。あなたたちだけでも生き延びて! そう言い残してきょうじん凶刃に胸を切り裂かれたお姉さんも。もういない。
少女の手を引き、少年は無我夢中で走った。
彼らの分まで生きなければならない。
生きたい。
しかしその痛切な想いを嘲笑うかのように、命を削る冷たい雪は一晩中振り続けた。
『今日も中央リニア新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく終点、東京です。お降りの際は――』
「ん……」
車内放送に瞼を開くと、乱立するビルの隙間から差し込む西日が、視界を赤くや灼いた。
思わず目を細める。晩秋の日差しは未だ強く、本格的な冬の到来はもう少し先のようだ。脳裏に残る白黒の光景とのギャップに、軽い眩暈を覚えた。
どうやらいつの間にか転寝していたらしい。ものの数十分ほどのことだったろうが、さすがは時速五百キロ超で走る
「もうすぐだよ。そろそろ起きないと……」
こちらの肩に身を預けて寝息をかいていた少女に声をかけた。彼女は周囲と自分を隔絶させるため、紅花染めの手拭いを頬っ被りしてずっと顔を隠している。
「……あさ?」
「違うよ。着いたんだよ。……東京に」
――大日本皇国の皇都、東京に。
やがて列車が停止する。降り立った駅のホームは多くの人で混雑していた。
「行こう」
人混みの中を少女の手を引いて進んだ。あの日のように。
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