露出=晒し者

 紫華シハナは同時にありとあらゆるメディアから声をかけられた。出演しろと。その度にいちいちこう答えた。


「バンドと一緒でないと出ない」


 そう伝えるとラジオは紫華にメインのマイクを固定セッティングし、音楽誌・文芸誌・芸能誌は紫華の写真を前面に押し出し、テレビでは紫華と蓮花レンカが前列のゲスト席に座り後列にウコクと馬頭バズが座るという配置にどうしてもならざるを得なかった。


 それでもバンド単体での露出はまだマシだった。紫華シハナが多少エキセントリックな応対をしても残りのメンバーでフォローできた。


 ある深夜の音楽番組に呼ばれた時のこと。


MC:紫華さん、恋愛経験は?

紫華:いじめられてる時にビッチどもに手足を押さえつけられて自閉症の男の子と無理やりキスさせられました。表面上は彼がわたしの彼氏という風になってしまったのでそれが恋愛経験なんでしょうか? どう思います?

MC:ええと・・・

ウコク:紫華。その彼のためにもそういう話はこの場では控えた方がいい。

紫華:・・・ごめんなさい、ウコク。


 という風に。


 ところが何を勘違いしたのか業界でNO.1の芸人がMCを勤めるバラエティ番組にバンドが呼ばれていわゆるゴールデンタイムに4人の姿が晒された夜があった。

 その芸人MCはどんな古参の芸能人の後頭部をもはたくことのできるいわば特権的な立場の人間だった。

 Aエイ-KIREIキレイが他の芸能人たちの中に混じって座り挙動不審さを漂わせているとその中でも一番寡黙で固い印象のウコクをMCはイジって来た。


「なんか言えや」


 笑いながらパアン! とMCはウコクの後頭部をはたいた。


 ゲストどもと観覧の客どもが一斉に笑おうとしたその瞬間、


 パン!


 ともう一つの音がした。


 紫華がMCの後頭部を力任せにはたいた。


 えっ!? という声なき声がその場の全員から聞こえるような気がし、収録会場が凍りついた。


「何すんねん!」


 パン!


 けれどもそれはMCの反撃ではなく紫華の追加の打撃だった。

 MCの中年男は怒りで顔面蒼白になり拳を振りかぶる。ウコクが静かに言った。


「女の子を殴るんですか」


 MCは本当にこめかみの辺りに筋を立てて怒鳴った。


「そいつが先に俺を殴ったからや!」

「それは違うでしょう。先に人を殴ったのはあなたの方でしょう」

「ああ。たしかに俺はアンタの頭をはたいた。けどそんなもんお約束やろ? 演出やろ?」

「それがあなたの芸なの?」


 紫華がMCに言うと彼は逆上した。


「ああそうや! オマエみたいにいじめを売り物になんかせえへんわ! 俺はきっちり笑いを取るんじゃ! この真性のいじめられっ子が!」


 ウコクが下からMCを睨め上げた。

 そして厳かに、紳士的に呟いた。


「殺しますよ」


 誰も笑っていなかった。


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