第3話
公園のベンチに座り込んでいる廻理に女性は、自販機で買った飲み物を渡してくる。
「飲むと良い、気持ちが落ち着くだろう」
「ありがとうございます」
素直に受け取り廻理は、飲み物を飲む。霊異なんて者に襲われた時にペットボトルを投げてしまったため喉が渇いていた。
「お姉さんからの奢りだ。気にせずに飲んでくれ」
と女性が言う。
お姉さん?と廻理は、口にしようとしたがギリギリの所で口をつぐむ。この失言によってどれだけの人が被害にあってきたか…なんて考える。
「なに、君が私をお姉さんとは思えないならそう言ってくれて構わないのだよ?私は、特に怒ったりはしないのだから」
と返してきた。とても信用できない言葉をもらった気分だ。
「はぁ、ようやく落ち着きました」
と廻理は女性に声をかける。
「そうか!それは良かったよ。じゃあ気をつけて帰ってくれ…と言うわけにはいかないからね?君とは話しておきたいことが沢山ある」
「あー、帰らせてもらえないですか?やっぱり今回のことって、なかなか不味いんですよね…」
帰らせてもらえるとは、全く思っていなかったため予想通りだった。
「なに、 君がこの話を世間にバラした所で世間は信用してくれないだろう。むしろ頭がおかしくなったと思われる。まぁ我々が君を殺す可能性は、出てくるがね?」
さらっと殺す発言が出てきて廻理は、終わったな…と悲壮な顔になる。
「おいおい、そんなに残念そうな顔をするな?元々、残念なんだから……まぁ冗談だ。君は、人にこのことをバラすような奴には見えないしな」
「顔が残念って…人にはバラしたりはしないですよ」
「それで話したいことなんだが、君も霊断士にならないか?」
「ふぇ?」
変な声で聞き返してしまった。
「私は、君を勧誘してるんだ。君は、霊異を見ることが出来た。それにその場に霊異の存在も感知出来るようだしね。充分な素質がある」
まさか、自分にこのような転機が訪れるとは予想外だった。予想できるだろうか?もうすぐ高校生になる自分が霊異と戦う?
「でも俺、まだ高校生にもなってないですよ?裏の道に足を踏み入れる感じですよね?」
と聞いてみる。自分としては、もう少し学校生活などを楽しんでみたいと思ったのだ。
「なに、普通に学校に行くのは問題ないよ。そのようにした人もいたしね。それに私達が動くの基本的に夜だけだ。昼間に霊異が出ることは基本的にないからね」
と女性は説明する。
「それじゃあ、学校に通いながらでも霊断士になることは出来るというわけか…」
「みんな中学生くらいでやってるだろう?勉強と部活の両立みたいなものさ。文武両道が大事なのだよ?」
「さらっと普通のことみたいに言わないでくださいよ。命がけの部活なんてあってたまりますか!」
ツッコミを入れるかのように廻理は、言葉を返す。
「さて、冗談はここまでにしておくとして…自己紹介から始めようか」
かなりからかわれたな…この人ニガテ…
「私の名前は、春神叶絵だ。霊断士の階級は、一級。まぁこれからよろしくな!」
と簡単に挨拶してくる。
「俺は…」
廻理は、名前を名乗るべきか少し悩んだが命を助けてもらったこともあり名乗らないのは失礼だと思ったので自己紹介する。
「俺は、夜疎川廻理です。今度、高校生になるので受験でこっちに来てました」
こちらも簡単に挨拶する。
「そうか、ここら辺の出身ではないのか。どこに住んでいるんだ?」
「ここから飛行機でそう遠くない島ですよ。夜島ってとこです」
「!!…なるほど良くわかったよ。私も行ったことがある場所だ」
最初に驚いた反応をしたのは気になったが、行ったことがあるとかそんな反応なのだろうなと考えておく。
「では、改めて聞かせてもらいたいが、君は霊断士になりたいか?嫌なら断ってくれても構わない」
真面目な口調に戻った叶絵が言う。
これは自分の人生を大きく変える転機となる。鈍い廻理でも良くわかった。
「はい!俺は霊断士になります」
叶絵をしっかりと見据えて答える。
「良い目だ。これからは廻理と呼ばせてもらうよ。それで君はこれから後どれくらいこっちにいる?霊断士になるというなら、そのことについても話さなければならない」
「あと2日はこっちにいます。その間で良いですか?」
廻理としても聞きたいことがあった。
「ああ、では君の携帯番号を教えて貰えるかな?こちらから連絡をしたい」
廻理もスマホを出して登録を行う。何気に女子と連絡先を交換するのは初めてだと気付く。叶絵は、女子という年齢でもないが…
「どれどれ、女子の連絡先は無しか…高校での良い出会いを祈っているよ…」
真面目な口調から元の口調に戻り、憐れむような表情を作って叶絵さんは言ってくる。
「ちくしょう…」
廻理は、虚しい気持ちになった。
「それじゃあまた連絡する。さすがに霊異は出ないと思うが送っていこう」
と言ってついてくる。
「ああ、助かります」
夜道を1人で帰る気分ではなかったので嬉しかった。
「びびって泣きながら帰ってたら可哀想だからね!」
否、嬉しくなかった。ホテルに着くまでの間、廻理はからかわれるのだった。
廻理がホテルに入っていくのを見届けて叶絵は、道を戻り始める。頭の中で考えているのは、紛れもなく廻理のことだ。
彼と同じ目をした人を叶絵は知っている。
「あの目を見たのも10年も前か…まさか、こんな出会いがあるとはな…絵理さん」
小さな声で呟いた叶絵の姿は、真夜中の街に溶けていった。
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