第一章 小学校の頃の思い出
第一章1 『解答開始/出発』
僕は玄関を開けて外に出た。
見上げると、澄み渡る青い空と白く輝く太陽が眩しい。
気温はやや肌寒い程度だが、これぐらいの気温が丁度いい。
今日は小学校の入学式。
いよいよ僕も小学生だ。
僕は背中に黒色のランドセルを背負って、頭には黄色のキャップ帽を被っている。
車の運転手の目に付きやすいだとかで、ランドセルにも黄色のカバーがつけられているけれど、僕は無い方が好きだ。一年生の間は絶対につけていないとダメらしいので、早く二年生になりたい。
「お母さーん、早く早くー!」
楽しみのあまり、お母さんを急かすように呼びかける。
「ちょっと大輝!上靴忘れてるわよー!」
「あ!いっけね!」
急いで靴を脱いで家に上がり、お母さんから布袋を受け取る。中を覗くと新品の上靴が入っており、新品ゆえのゴム臭さが残っている。
布袋はお母さんの手作りだ。
「もう小学生なんだから、しゃんとしなさいな。持ち物の管理は大事だって何度も言ってるでしょ?」
「……はーい。ごめんなさい」
お母さんに頭をポンポンと触られる。
折角の入学式で忘れ物スタートをしたくないのは、僕もお母さんも同じ気持ちだ。ただの不注意で、入学早々靴下で校内を歩きたくはない。
持ち物管理は大事、持ち物管理は大事、ともう一度心に刻むと、
「よし、じゃあ行こっか」
「うん!」
今一度外へ出た。
「大輝、行ってきますは言わないの?」
「あ!」
玄関の先で振り返る。
家の中で、きっとまだ寝ているであろうお父さんに向けて大きな声で、行ってきます!、と言う。
──お母さんも言わないと!
──はいはい、……行ってくるね、あなた!
こうして、目的の小学校へと歩みを進め始めた。
今年は特に異常気象もなく、例年通り見事なまでの桜並木が出来上がっていた。
一風が吹くごとに、頭上から桜の花弁がひらひらと落ちてくる。
それを捕まえようとしてはスかし、捕まえようとしてはスかしを繰り返していると、お母さんがノールックでそれをいとも容易く掴んで、僕に渡してきた。
「え、すげー!どうやってやったの!?」
「どうやったもなにも無いわ。強いて言うなら、経験の差ね。それと大輝が下手すぎるだけ」
「えー!?」
もう一度挑戦しても、やはり捕れない。
そんなに自分が下手なのかと、肩を落としていると、
「あ、おはようございます!冬川さん」
と、お母さんが急に明るく挨拶をした。方向的には右斜め前である。
驚いてその方向を見てみると、若い女の人と、僕と同じように黄色い帽子を被り、黄色のカバーをつけた赤色のランドセルを背負っている女の子が、手を繋いでこちらへと歩いてきていた。
「あら、おはようございます、松村さん。今日もいい天気ですねー」
「えぇ本当に。折角の入学式ですし、雨が降らなくて本当によかったです。……大輝、挨拶は?」
と、急に話を振られたので
「あ、お、おはようございます!」
と急いで言ってぺこりと頭を下げる。
「おはよう
そう言って冬川さんは横にいる女の子に挨拶をするよう促す。
僕は頭を上げてあらためて二人の姿を見ると、その異様な光景に驚いた。
先程は突然のことで気がつかなかったのだが。
そこに居た二人の頭髪は黒とか茶色などではなく、金色、それもよくいる少し茶色とかが混ざった金ではなく、完全なまでの金色。もはや白みがかっており、日光を浴びて透き通るように輝いていた──この後、ネットで調べたら、プラチナブロンドという髪色だったらしい──。
そして、見事なまでの碧眼。そこには、一度だけ見たことのある沖縄の綺麗な海のような鮮やかさと、海の底のような何もかもを吸い込みそうな深みを持った四つの
冬川さんに急かされ、女の子、冬川さん曰く史織は少し顔を上げる。
「……お、おはようございましゅ」
そう言って、少しだけ上げた頭をまた下げてしまった。
しかし、その刹那的な一瞬でも、僕を魅了するのには充分すぎるほど長い一瞬だった。その時間、僅か一秒。
語尾を噛んだことなどどうでもよく、僕は一瞬だけ見えた少女の顔に、すっかり見惚れてしまっていた。
初雪のように白い肌の中に、少しだけ赤くなっている両頬。
透き通った碧眼の双眸は見る者を誰でも釘付けにしてしまう。
日本人には珍しい、少し高い鼻の下には薄紅色の薄い唇。
そして首から上と下でのギャップが凄まじい。
上は先述の様に、モデル顔負けのルックスを兼ね備えており、何処かのお姫様かと思ってしまうような容姿なのだが、もちろん同じ小学校一年生なので、白を基調とした、赤色のリボンがワンポイントのセーラー服を着ているわけだ。
全国のどこにでもいる小学生が着ている服を、お姫様のような少女が着ているのだから、ギャップを感じないはずがない。
そのギャップが、僕の意識をより彼女に惹きつけているのだった。
お母さんが前屈みになって、史織に応える。
「はい、おはよう史織ちゃん。元気にしてた?」
史織が顔を上げる。
「は、はい、とっても」
「なら良かった。うちの子うっかり屋さんだから、学校でもよろしくお願いしていい?史織ちゃんすごくいい子だから」
「ぁ、は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
史織が再び頭を下げる。
「うん、よろしくお願いします」
続いてお母さんも頭を下げる。
冬川さんはその光景を優しく見守っていた。
僕はというと、まださっきの衝撃から抜けきっておらず、今の会話もほとんど何も聞いていない。
何故かお母さんと史織がお互いに頭を下げあっている、としか分からなかった。
すると、再び顔を上げた史織と目が合う。
「ッ…………///」
……ヤバい。恥ずかしくて直視出来ない。すぐ目を逸らしちゃったし、変に思われてないといいけど……。
再び史織の方を見ると、またしても目が合ってしまい目を逸らす。……一人でなにやってるんだろう、僕。
「それじゃあ行きましょうか、遅刻しても困りますし」
冬川さんが促すように学校の方面へ身体を向けて、史織の手を取る。
「えぇ。ほら、行くよ大輝」
お母さんが冬川さんを真似してか、僕に手を差し出す。それを僕は拒む。
「あら、私とじゃ嫌?それとも史織ちゃんと繋ぎたいの?」
「いやっ、べ、別にそんなんじゃ……ないし……」
そう言って、仕方なくお母さんの手を取る。
……別に史織の前でお母さんと手を繋ぐのが恥ずかしいとかじゃないし。ただ混乱しただけだし……。
その後は、車道側からお母さん、僕、史織、冬川さんの順で並んで歩き出した。
途中、向かい側から自転車に乗った男性の通行人が来て、横並びに歩いているのを見て嫌な顔をしたが、冬川さんを見て機嫌を直してくれる。
親譲りなのか、やはり冬川さんも整った顔立ちをしているからだ。こちらもモデル顔負けである。
「どうしたの大輝?やたらと口数が少ない気がするけど。……あ、もしかして照れてる?」
「そんなことないし!入学式に緊張してきただけだし!」
「本当かしら〜」
お母さんと冬川さんが笑い合う。史織も多分だが、少しだけ笑いを堪えてる気がする。チラッと見ると、少しだけ顔が赤くなっている。……やっぱり。
「別にそんなんじゃないのに……」
……現在進行形で顔を赤くしている大輝の言葉には、なんの説得力も無いのだった。
☆ ☆ ☆
私は玄関を開けて外に出た。
見上げると、澄み渡る青い空と白く輝く太陽が眩しい。
気温はやや肌寒い程度だけど、これぐらいの気温が丁度いい。
今日は小学校の入学式。
私もいよいよ小学生だ。
私は背中に赤色のランドセルを背負って、頭には黄色のメトロ帽を被っている。
車の運転手の目に付きやすいだとかで、ランドセルにも黄色のカバーがつけられているけれど、私は無い方が好きだ。一年生の間は絶対につけていないとダメらしいので、早く二年生になりたいな。
「お母さーん、早く早くー!」
楽しみのあまり、お母さんを急かすように呼びかける。
「ちょっと史織ー!上靴忘れてるわよー!」
「あっ、忘れてた!」
急いで靴を脱いで家に上がり、お母さんから布袋を受け取る。中を覗くと新品の上靴が入っており、新品ゆえのゴム臭さが残っている。
布袋はお母さんの手作りだ。
「もう小学生なんだから、ちゃんとしなさい。持ち物の管理は大事だっていつも言ってるでしょう?」
「……はーい。ごめんなさい」
お母さんに頭をポンポンと触られる。
折角の入学式で忘れ物スタートをしたくないのは、私もお母さんも同じ気持ちだ。ただの不注意で、入学早々靴下で校内を歩きたくはない。
持ち物管理は大事、持ち物管理は大事、ともう一度心に刻むと、
「よし、じゃあ行こっか」
「うん!」
今一度外へ出た。
「史織、行ってきますは言わないの?」
「あ!」
玄関の先で振り返る。
家の中で、きっと仕事をしているであろうお父さんと、たくさんの執事やメイドの人たちに向けて大きな声で、行ってきます!、と言う。
「「「行ってらっしゃいませ、史織お嬢さま、奥様」」」
執事たちがピタッと揃って頭を下げる。
──お母さんも言わないと!
──はいはい、……じゃあ、行ってくるわね。いつものように、旦那をよろしく頼むわ。
と、澄ました顔で執事らに言うので、
「違う〜!そうじゃなくて!」
「お父さんになら、さっき言ってきたわよ?チュー付きでね」
「……ならわたしもしてくる!」
「行ってきますは私がしたから、ただいまは史織がしなさい。それでいいでしょ?」
「……確かに」
こうして、目的の小学校へと歩みを進め始めた。
今年は特に異常気象もなくて、例年通り見事なまでの桜並木が出来上がっていた。
一風が吹くごとに、頭上から桜の花びらがひらひらと落ちてくる。
「すごーい!綺麗だー!」
「去年はあなた、これを取ろうとしてただけだったのに、一年経てばそんな感想も言えるようになるのね〜」
去年……?あぁ、去年も来た気がする。その時はお父さんもいたな。確か、私が桜の花びらを捕ろうとしてたら石に躓いて、そこをお父さんに助けられたんだよね。
それでお父さんが代わりに花びらを捕ってくれたんだっけ。
その時のリベンジとして、もう一度花びらを捕ろうとしてみる。
「……んん〜、全然捕れな〜い」
「運動神経の方は一年経っても変わらず、ね」
お母さんに笑われる。
その通りだけど、悔しいぃ……。
そうして、何度かリベンジをしていると、唐突に道の正面から女性が話しかけてきた。
「あ、おはようございます!冬川さん」
驚いてその方向を見てみると、若い女の人と、私と同じように黄色い帽子を被り、黄色のカバーをつけた黒色のランドセルを背負っている男の子が、こちらへと歩いてきていた。
「あら、おはようございます、松村さん。今日もいい天気ですねー」
「えぇ本当に。折角の入学式ですし、雨が降らなくて本当によかったです」
と、お母さんと、お母さん曰く松村さんが挨拶をする。
なんか見たことある顔だな……。
そして、松村さんの視線が右に下がり、
「……大輝、挨拶は?」
と、言ったので、たいようくん……?の顔が少し上がる。危うく目が合いそうになったので、反射的に視線を下げてしまった。
「あ、お、おはようございます!」
と、たいよう君は挨拶をしてぺこりと頭を下げる。
礼儀正しい子だ……。
「おはよう大輝くん、良い挨拶ね。ほら、史織も」
そう言ってお母さんは私にも挨拶をするよう促してきた。
たいよう君に感心していて話を聞いていなかったため、慌てて顔を上げて挨拶をする。
「……お、おはようございましゅ」
か、噛んじゃった……!!
恥ずかしさのあまり直ぐに下を向く。
……なんでこんな時に噛んじゃうの!たいよう君が挨拶したのなら私もすることになるって分かってたのに!
そこで追い討ちをかけるように松村さんが
「はい、おはよう史織ちゃん。元気にしてた?」
と、聞いてくる。
ちょっと待って!まだ立ち直れてないのに……!
私は顔を上げて、
「は、はい、とっても」
と、何とか笑顔になりながら応える。
大丈夫かな、不思議に思われないかな……。
「なら良かった。うちの子うっかり屋さんだから、学校でもよろしくお願いしていい?史織ちゃんすごくいい子だから」
「ぁ、は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げる。
良かった……何とかなった……。
「うん、よろしくお願いします」
松村さんも頭を下げる。
あれ?そういえば、うちの子をお願いされたような……?
思わず顔を上げて、たいよう君を見る。
あれ……すぐに目を逸らされちゃった……。
えっと、もしかして……嫌われちゃった……?
そのままじっとたいよう君を見つめていると、再び彼がこちらを見る。
……またすぐに逸らされた。
やっぱり…………私、嫌われちゃったんだっ!
そんな……。
「それじゃあ行きましょうか、遅刻しても困りますし」
お母さんが促すように学校の方面へ身体を向けて、私の手を取る。
「えぇ。ほら、行くよ大輝」
松村さんがたいよう君に手を差し出す。でも、たいよう君はそれを握らない。
「あら、私とじゃ嫌?それとも史織ちゃんと繋ぎたいの?」
えっ!?わ、私……っ!?
「いやっ、べ、別にそんなんじゃ……ないし……」
そう言って、たいよう君はお母さんの手を取る。
…………あぁ……なんだ。
……べ、別にたいよう君と手を繋いでみたかったとかじゃないもん。ちょっとショックだっただけだもん。
でも、最初のお友達になると思ってたのにな……。
その後は、車道側から松村さん、たいよう君、私、お母さんの順で並んで歩き出した。
途中、向かい側から自転車に乗った男性の通行人が来て、横並びに歩いているのを見て嫌な顔をしたが、松村さんを見て機嫌を直してくれる。
……改めて松村さんの顔を見ると、やっぱり綺麗だ。肌もシミひとつ無いし、髪もツヤツヤサラサラで、すごく可愛い。
すると、位置的に、視界の端にたいよう君が映る。その横顔がなんだかすごくカッコよくて、思わず照れてしまう。
「どうしたの大輝?やたらと口数が少ない気がするけど。……あ、もしかして照れてる?」
「そんなことないし!入学式に緊張してきただけだし!」
「本当かしら〜」
お母さんと松村さんが笑い合う。
そんな、照れてるのは私の方なのに……。
「別にそんなんじゃないのに……」
……ほら、たいよう君だってこう言ってるもん。
……はぁ、入学式の前からこんな調子で大丈夫なのかな、私……。
〜後書き〜
登校初日から憂鬱ばかりのお二人さん。こんな感受性豊かな小学生、いるんですかね……
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