第十三章 マヤがいない
マヤがいない。
朝、起きたらマヤがいなかった。
俺は狭い家の中を捜しまわる。
黙っていなくなるわけないだろう?
そう思うのに焦って。
俺はサンダルを履くのももどかしい思いで庭に出た。
はあ〜。
長い息を吐く。
安堵し再度溜息をつく。
「ゴン太もいない。散歩に出掛けたのか」
マヤがいなくなったと思った。
ナイフで切られたみたいにズクンッと心が痛んだ。
ドクドクッと動悸がした。
ただの散歩だって分かってこんなにもほっとするなんて。
俺は……。
朝の穏やかな青い海にマヤはゴン太といた。
俺たちが出会った岩礁の海。
キラキラと昇りたての太陽を反射させている。
出会った頃より少し健康的に筋肉をつけたマヤの姿に見惚れた。
俺は32歳で彼女は22歳。
歳の差は10歳か。
弾けるような眩しい笑顔。
そこだけ見れば不幸を抱えていて死にたがっていたようには見えない。
若さと美しさを持った輝く人。
マヤは岩陰を覗き込んでる。
慌ててそこから逃げ出す蟹らしき物が見えた。
「ヒカルさーん」
マヤが俺に気づいて笑顔で手を振っている。
尻尾を激しく振り回すゴン太と一緒にマヤが俺の方に小走りで向かって来る。
「危ないぞ、ゆっくりおいで」
俺はある思いを決意した。
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