第75話 美名井様
「いやぁー! すっごい盛り上がったねー!」
さよりは、山のように積まれたお札を数えながら言った。ライブが大成功だったためか、その後の特典会も大盛況だったのだ。
「ははは。ヒヤヒヤした場面もあったけど、みんなよく頑張ったよ」
「ふっふーん。これくらいは朝飯前よ!」
「そうだったんだ。道理でお腹ペコペコなはずだよ!」
「ったく。あんた、さっき食べてたでしょう!」
「あぁ、そうだった。けどそのときはあおいも食べてたよ!」
「違うわよ。朝飯前ってのは楽勝ってことよ、楽勝!」
あおいが言うほど楽勝だったとは思えないが、結果オーライという言葉もある。お札を数え終えたさよりは、その中から10万円を残して、残りを全て太一に渡した。思わぬ大金に、太一の目が眩んだ。
「えっ、こんなに! 良いんですか?」
「当たり前よ。けど、ちゃんと彼女たちにも分けなさいよ」
「はい。それはもちろん!」
太一はさよりに深々とお辞儀して、札束をそのまま財布にしまおうとした。
「あっ、そうそう。忘れてたわ!」
そのときにさよりはそう言って、太一の手から11枚目の1万円札を抜き取った。
「これ、命名料ね!」
さよりには、悪びれたところが全くない。太一はここへきてようやくさよりを理解できたような気持ちになって、ふふっと笑顔をこぼした。
「それから、光龍社のことなんだけど」
「はい!」
太一は急いで札束をしまい切り、さよりに向き直った。
「ここが光龍社よ」
「えっ、でもここは……。」
「さっきのステージが拝殿なの。裏にもう一部屋あって、そこが神楽殿よ」
「なるほど。多角経営ってわけですね」
「あ、それから、その裏に御神体が飾ってあるわ」
「それ、見せて頂けませんか!」
太一はグッと身を乗り出して言った。さよりはその迫力に気圧されて、顔を赤らめた。さよりは太一のことをまだ子供だと思っていたが男を感じてしまったのだ。さよりは、上を見ながら言った。
「構わないけど、その代わり……。」
「は、はい……。」
太一がしまったばかりのお札を用意しようとしたとき、さよりが言った。
「その代わり、来週もライブやってちょうだい!」
太一はコクリと頷いた。こうして、来週もライブをやることと引き換えに、太一は御神体を拝見することができた。しかしそこに宿っていたのは、とんでもない神様だった。
「あれ? どなたですか。私の昼寝の邪魔をするのは?」
「すみません。光龍大社の宮司の鱒太一と申します」
太一は、昼寝と聞いて、もう夜だろっ! とツッコミたかったのを我慢して、なるべく丁寧に念を返した。
「じゃあ、まなっちのところの宮司さん? 随分と幼いのね」
「はい。5月から父が諸国漫遊中でして」
「それは大変ね。私なんかに何の用なの?」
太一は、光龍様に呼ばれていることを告げた。
「良いわ。じゃあ、紙に私の名前を記してちょうだい」
「はい。では、お名前を教えてください」
「『みなっち』で良いわよ平仮名で」
太一は広告の裏にマジックペンで『みなっち』と書いた。すると、みなっちはそこに乗り移った。
「じゃあ、連れて行ってちょうだい」
こうして、太一はみなっちを連れて光龍大社に戻ることができた。みなっちは真名井様に比べて軽い性格をしている。だから、太一はみなっちの本質を見抜けなかった。
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