第68話 巫女アイドル構想

「何でブロマイドの販売なんかしなくちゃいけないのよ」

「そうよ。写真なんて、反則じゃない!」

「ま、前例があっても理解はし難いっしょ」

「私は、やっても良いけど……。」

「うんうん。楽しそうだもん!」

「ですが、私なんかの写真、好んで求めてくださる方はいるのでしょうか」


 あおい、しいか、まことの3人は、猛反対した。アイリスとまりえはそこそこ乗り気だったが、優姫は自信がなくて決断できないでいた。明菜と比べられるのが嫌だったのだ。


 太一は、7人全員での巫女アイドル構想にこだわっていた。だから1人でも反対する巫女がいればお蔵入りさせるつもりだった。だが、まりえは兎に角アイリスが乗り気なのは嬉しいことだ。なんとかして3人を説得したいと思った。そのために、まずは躊躇っている優姫を味方に付けたいと思った。優姫の交渉術は、1級品なのは間違いないのだ。だが、横にいたあゆみは、全く違うアプローチを試みようとした。


「ねぇ、しいか。MNS84シアターの前を通ったとき、どう思った?」

「どうって……はじめは、なんだかおかしいなって思ったわ」

「うんうん。巫女装束と巫女服は違うものね」

「そうよ。でも、溌剌としたアイドルさんを見ていて、不思議な気持ちになったわ」

「不思議な気持ちって? どんな気持ちなの?」

「もしかしたら、衣装って鱗のようなものなのかもって思ったの」

「ま、鱗は着脱不可能っしょ」


 それまで黙ってあゆみとしいかの会話を聞いていたまことが言った。こういうタイミングでまことがはなすときは、まことの心が揺れているときだ。太一は冷静にはなしの先を見切っていた。


「かわいい衣装を着た私たちの写真を見て、頑張ろうって思う人が1人でもいたら……。」

「……1人でもいたら……。」

「それは、光龍様の神威を高めたことになると思うの」

「……光龍様の、神威……。」

「そしてそれは、私たちがマスターの力になった証拠でもあると思うの!」

「……私たちが、マスターの力に……。」


 しいかはしばらく考え込んでしまった。まことは、しいかの顔色を伺っていて、今度は何も言わなかった。内心では巫女アイドル構想賛成に傾いているのだ。太一にはそれが伝わっており、思わず顔をほころばせていた。


「うんうん。マスターのためなら、まりえは頑張るよ!」

「そうね。マスターのためなら、私もやるわ」


 空気を読めないまりえのナイスプレーだった。しいかの背中をぐーっと押した。


「はい。私も微力を尽くします!」

「ま、これで決まりっしょ!」


 気合の入った顔つきの優姫、対照的に笑顔となったまこと。顔を見合わせたあと、2人は同じ方に向き直った。太一やしいか、あゆみもアイリスもまりえでさえ、その1点に視線を集めた。


「分かったわよ。ただし! 私のブロマイドは6月からよ。契約があるから」


 こうして、御護り(ブロマイド)の授与が行われることになった。

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