第67話 明菜の存在
本格的に絵魚の授与作戦がはじまった。だが、はじめのうちは光龍大社を訪れるものはほとんどいなかった。学校を休んで宮司職に励む太一だったが、平凡な毎日を繰り返すだけだった。朝餉と夕餉のあとの発光を除いては。
「HPへのアクセス数は、順調に伸びているんだけどな……。」
「授与に繋がらないっていうのが問題ってことか」
ある朝、太一は本島とビデオチャットをした。
「やはり6月までは動けないかもしれないなぁ」
「俺としてはあおいの知名度に頼らずにことを進めたいものだけどな」
なまだしあとしての知名度があるあおい。今は契約があり、ネットを含めて本人画像を使えない。だから、あおいが巫女をしているということを公表できないのだ。だから、HPに参拝の仕方や光龍大社の由緒を説明する動画を載せてはいるが、他の巫女たちは映していてもあおいの姿はない。だがもしあおいが光龍大社の巫女をしていることを公表すれば、一目見ようと光龍大社に訪れる人が増えるのは間違いない。
「マスターがそういうんじゃ、仕方ないなぁ」
「すまん。他の方法を考えよう」
この日までの授与数は157点。残り9843点、どうすれば授与数を伸ばすことができるのだろうか。太一と本島は頭を捻った。そんなとき、あゆみが太一の部屋に入って来た。
「マスター、モトジメ。2人に相談があるの」
そう言いながら、あゆみが2人に見せたのは、光龍大社の過去帳だった。そこには、かつて明菜が授与品を年間5千点も授けた3年間の詳細が記されていた。
「御護り(ブロマイド)、3752点。主力は、絵魚じゃないんだ」
「でもマスター。ブロマイドって、何のことだ?」
「これは、私の父が持っていたものよ」
そう言って次にあゆみが2人に見せたのは、古いブロマイドだった。巫女装束を身に纏った若い女性が、笑顔で写っている。背景にも見覚えがある。光龍大社の数少ない名物の1つ、4匹の狛狼だ。縦書きで隅っこには『御護り』、『恋愛成就』、『光龍大社』の文字が印字されている。
「母さんだ! 間違いなく、お母さんの若い頃の写真だ」
「1枚千円で授与されてたみたいなの」
あゆみは、さらに続けた。
「私ね、マスターのことが大好き。とても輝いているんだもの!」
「何だよ、藪から棒に!」
照れる太一。本島は画面越しに惚気はなしを聞かされる羽目にあった。あゆみはなおもはなした。輝く太一に、巫女アイドルを率いて欲しいと。そしてその言葉は、本島にも届いた。
「輝いているのは、マスターだけじゃないぞ! 俺だって!」
「あぁ、そうさ。俺たち、2人で5年間を取り戻すって決めたもんな」
太一もそれに応えた。2人は、さながら青春ドラマのような盛り上がりを見せた。
「冗談じゃないわ! 2人でなんて、させないんだから!」
「えっ! なんだよ、あゆみ」
「そうだよ。折角盛り上がってるのに!」
あゆみは、心持ち太一よりも画面の向こうの本島に向けて言った。カメラに正対し、身を乗り出してさえいた。
「今度は私も、私たちも一緒に輝くんだから!」
かつて明菜が行なっていた巫女アイドル活動。太一は授与数を伸ばすためにそれを復活させるつもりになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます