第5話 テイム成功

 俺は町に向かう。


 町は牧場の東側にある。あまり大きな町ではなく、住民も少ない。


 入場門があり、ようこそレミルタウンと書かれている。町の名前だ。


 門をくぐり町に入る。

 西洋風の家が、立ち並んでいる。人が何人か歩いていた。見知った顔だが、あくまでそれはゲームだった頃、見たに過ぎず、現実になった今はどういう人間なのかは、分からない。まあ、最初にあったミナの印象は、あまり変わらなかったけど。


 今回俺が向かうのは、鍛冶屋と雑貨屋だ。


 鍛冶屋では武器を、雑貨屋ではモンスターのエサを買う。


 最初に俺は鍛冶屋に赴いた。


 鍛冶屋をやっているのは、バンドーラ・ビルグレストという男だ。

 店の看板にはアグメントと書かれている。これがこの鍛冶屋の名前である。


 俺は扉を開けて中に入った。


「いらっしゃい」


 髭面の中年男が出迎えた。

 彼がバンドーラ・ビルグレスト。

 歳は確か三十中盤。

 独身であり、行き遅れてしまっていることを嘆いている。


「見ない顔だなあんた。そういや、牧場に新しい牧場主が出来るって噂が流れているが、あんたがその牧場主か?」


「ああ、タクマ・サイトウだよろしく」


「俺はバンドーラ・ビルグレストだ。見ての通り鍛冶屋さ。農具の改造や、武器の販売をしている。今日は挨拶に来たのかい? それとも何か用があって?」


「銅の剣が一本欲しいんだ。売ってくれ」


 このゲームで一番弱い武器は銅の剣である。値段は100ゴールド。


 俺は100ゴールド払う。

 ゴールドは腰に下げられている、ゴールド袋に入っている。この中には不思議といくらでも金が入るのだ。


 銅の剣を受け取って、インベントリに収めた。


 鍛冶屋を出て雑貨屋へ。


 店の前にある看板に、『雑貨屋リーエンへようこそ!』と書いてある。

 俺は扉を開けて中に入った。


「いらっしゃい」「いらっしゃいませ〜」


 男の声と女の声が同時に聞こえてきた。


 店主の男、オーバス・リーエンと、その娘である、最初に俺とあったミナの声だ。


「あ、タクマさんじゃないですか〜」


「ああ、その人がミナの言っていた、新しい牧場主さんか。よろしく頼むよ」


 オーバスがそう挨拶をしてきた。

 彼は眼鏡をかけた中年の男だ。髪は黒く、目尻が下がっていて優しそうな印象を受ける顔をしている。ミナとよく似ている。


「今日は何を買いにきたんですか〜?」


「モンスターのエサを十個ほしい」


「二百ゴールドですけど、よろしいですか〜?」


「ああ」


 俺は二百ゴールドを取り出して払った。

 これで所持金はゼロである。


 モンスターのエサを10個受け取った。

 エサは野球ボールくらいの大きさの茶色い玉である。

 俺は10個全部、インベントリに収めた。


「じゃあ、俺はこれで」


「また来てくださいね〜」


 俺は雑貨屋をあとにした。


 さて、必要な準備は整った。

 ダンジョンに行こう。


 町の南からダンジョンに行ける。

 俺は南の門から街を出て、ダンジョンへと向かった。



 ○


 ダンジョンは複数あり、最初に行くのは町の近くにある『始まりの洞窟』だ。

 出てくるモンスターはほぼほぼ弱いが、一つだけ強力なモンスターがいる。

 そいつには戦いを挑んでは絶対にならない。


 最初にテイムをしよう。

 弱いモンスターなら、本当に楽にテイムできる。

 モンスターは最初は弱くとも、レベルを上げると別のモンスターに進化して、大幅に強化されるので、最初のダンジョンにいるモンスターでも、最終ダンジョンまで使うことが出来る。



 始まりの洞窟に到着した。

 洞窟の出入り口に、始まりの洞窟と書かれた看板がある。

 現実になったから場所が変わったということはないみたいだ。


 俺は中に入る。

 中は薄暗い。

 だが、火のついたカンテラが壁に掛けられており、前も見えないほど暗いというわけではない。


 モンスターの出る場所は把握している。

 入ってから五十メートルほど歩くと、広い空間に出る。

 そこにモンスターがいる。

 一応用心して、ゆっくりと歩いていく。

 しばらくして、広い空間に辿り着いた。

 俺の見立て通り、そこまでモンスターには出くわさなかった。


 広い空間の真ん中には黒い渦がある。

 あれはからモンスターが出てくる。

 元々モンスターというのは別の世界の存在で、あの穴を通ってこの世界にくる、という設定だった。

 ちなみにモンスターを倒した場合、死ぬのではなくその元の世界に送り戻されることになる。現実となってもそうなのかは、分からないが。


 穴からモンスターが出てきた。


 コボルドだ。


 コボルドといえば、ファンタジー系の定番モンスターだ。

 二足歩行する犬を思い浮かべるだろうが、この世界のコボルドはそうではない。


 水色の毛のチワワの額から、イッカクが生やしているようなグルグル巻きの角が一本生えている、という外見だ。角の長さに関しては、30cmくらいだ。イッカクほど長くはない。


 角を作った突進攻撃が強いが、スピードが微妙なので食らいにくい上に、当たっても意外とダメージはない。最弱のモンスターである。


 レベルが20になるとライカンスロープに進化し、40になるとフェンリルに進化する。フェンリルまで進化するとかなり強い。


 とにかくテイムをしよう。


 まずはコボルドに近づく。


「ワン! ワン!」


 俺を睨みながら吠えてきた。

 威嚇しているようだが、外見が愛くるしいのであまり怖くはない。


 インベントリを開き、モンスターのエサを取り出す。


 コボルドは頭を下げ、角をこちらに向ける。突進してくる気だ。


「ワンワンワン!!」


 吠えながら突進してくるが遅い。

 俺は軽く避ける。


 避けられたあと、コボルドは止まるので、俺はモンスターのエサを投げて、コボルドにあげた。


「ワン……?」


 ゆっくりとコボルドはエサに近づき、食べる。


「ワンワン!」


 食べ終わると、俺から敵意をなくして攻撃して来なくなる。

 こうなるとテイムの魔法を使えば、テイム成功だ。

 ここまで簡単に態度を軟化させる事が出来るのは、コボルドくらいしかいない。


「テイム」


 俺はテイムの魔法使用。

 特に何もエフェクトは起きないが、魔法を使用した瞬間、


『コボルドのテイムに成功しました。名前をつけてください』


 と機械音が頭に流れてきた。

 こんなところも同じなのか。


 名前を入力する画面が表示される。

 自分の名を名乗るときはこんなのなかったが、テイムする時はあるのか。


 名前、名前、名前、名前……。


 昔、飼っていた犬と同じ名前にするか。


『ロン』と、入力した。


『ロンでよろしいですか?』


 と再び機械音と共に、画面が表示される。はいといいえのボタンがある。

 俺ははいのボタンを押した。


『ロンが仲間になりました』


 最後にそう機械音が俺の頭に鳴り響いた。


 とにかく最初のテイムに成功した。

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