海百合と[リメイク] その四
何も式神は式神にしか攻撃してはいけないというルールはない。海百合は芽衣、もしくは芽衣が持っている札が狙いなのだ。札を破壊すれば式神も壊れる。だから[リメイク]に[ディグ]を探させるのをやめさせたのだ。
「さあ、やりなよ。芽衣の式神は多分、戦闘には向いてない。だから土掘って逃げ回ってる。無防備な召喚師を守る術がない方が悪いんだから」
「それは卑怯だわ!」
真菰が[ドレイン]を数匹、芽衣の前によこした。体こそ脆いものの、チカラは便利な式神。この中にはプラズマを使える個体も混じっていることは、真菰しか知らない。
一匹の[ドレイン]の吻が光り輝いた。
「これは……確かあの、[ブリリアント]の…」
一瞬で海百合は[リメイク]とともに横に飛んだ。プラズマは外れ、校庭の隅に生えている木を焦がしただけだった。
「どうやらそこまで知ってるみたいね。じゃあ巴と灸に私を襲わせたのはあんたで確定だわ!」
自分を襲った召喚師のことを真菰は思い出した。加密列巴と麻倉灸のコンビだった。その時は負かされてしまったのだが、式神のチカラはコピーできたのだった。
「ともえ? やいと? あの雑魚に手こずるなんてキミはじゃあ弱いんだ?」
「はー? 雑魚って何よ? 私は死ぬかと思ったのよ?」
「じゃあ死ねば? そのまんま」
「何よソレ!」
二度、三度とプラズマを発射するが、全てかわされる。撃ち込む前に光ってしまうため、軌道が予測しやすいのである。
「当たんないけど、防ぐ術もない。無駄に厄介ね、プラズマは」
警戒はしておく。[リメイク]のチカラをもってしても、消し炭に変わらない物質がないので、当たったらお終いなのには変わらない。
(鏡に変化させたとしても、漫画みたいに反射できるとは思わない。なら先にあの[ドレイン]だけ潰すせば…)
どうせ穴しか掘れない[ディグ]は放っておく。海百合は真菰に目を向けた。ちょうど真菰も海百合を睨んでいた。
「あんたが何を考えているかはこの際どうでもいいわ。重要なのは召喚師を集めている理由…。それが知りたいわ」
「理解できるの、キミみたいな顔だけが取り柄な女に?」
[ドレイン]が脚に氷を生成し、それを使った。だが海百合は携帯を火炎放射器に変えて、冷気ごと蒸発させた。
「あれは[ディフューズ]のチカラ。でもアタシには通じない。だからあの二人はただの雑魚…」
急に海百合が三人の視界から消えた。
「オッケー[ディグ]! 地面が陥没するぐらいの穴ならやっぱり一瞬だ! あの子も油断してたから対処できなかった!」
海百合は穴に落ちたのだ。尻餅もついたので腰を撫でる。
「いつつ…」
そこに追い打ちと言わんばかりに[ドレイン]が氷を放つ。小さいが鋭い氷の破片が、[リメイク]の顔に突き刺さると悲鳴を上げた。
(ちょっと不味い。[リメイク]のチカラは氷には使えないし、穴を深くされたら脱出も不可能…)
急いでブレザーを脱ぐと脚立に変化させ、それを登って地上に出た。海百合が次に取った行動は、シンプルだった。
ブレザーと携帯を合わせて消火器に変化させた。そして噴射した。これなら相手がいくら硬くても、ダメージを与えるのが目的ではないため、たやすく視界を奪うことができる。
「うおお、何だ?」
竹刀を振っても意味はない。ありったけの消化剤を撒き散らした海百合は、生じた隙を利用してその中に入り込む。既にハンカチをガスマスクに変えさせて装着しているので呼吸も苦しくない。
「煙幕…? でも触れない方がいいかも…」
三人は白い煙を避けて後ろに下がる。だが既に海百合は、三人の背後に回り込んでいた。
「[リメイク]…」
あとは簡単だった。[リメイク]なら人を持ち上げることなど簡単にできる。興介たちの体は[ハーデン]によって硬くされているのだろうが、投げ飛ばすことぐらいできるはずだ。
まずは芽衣からだ。あの式神にはしてやられた。
「きゃあ!」
十数メートル吹っ飛んだ。地面に叩きつけられた衝撃でか、立ち上がろうとしない。
次は真菰。同じく力任せに放り投げる。真菰もうずくまっている。
「見つけたぞ、お前!」
最後の興介には発見されてしまった。[ハーデン]が勢いよく[リメイク]に突っ込んでくる。二対の式神は激しく衝突し、雄叫びを上げる。[リメイク]の方がわずかだが後ろにのけぞったので、海百合は少し焦った。純粋な力勝負では、[ハーデン]の方がちょっとだけ上回るのだ。しかも相手は体を硬くしている。
だが数回ぶつかると今度は、興介が青ざめる番だった。[ハーデン]がフラフラしている。対する[リメイク]はしっかりと踏ん張っている。
「硬い割には、脆い…」
次の一撃であっけなく[ハーデン]は吹っ飛ばされた。しかも真後ろに興介はいたので、[ハーデン]に押し倒された。
「やっぱり、弱者はいくら束ねても強くはなれない。歩兵を百人用意するより、戦車が一台出撃した方が強い」
海百合は勝ち誇った表情で言った。
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