海百合と[リメイク] その三

 榎高校では、姿を見せない霧生を三人が心配していた。校庭の片隅に集まって、

「まさか勝手に行ったってことはないだろうな? 芽衣、ちゃんと霧生は行かないって言ったんだよね?」

「そう言われると、自信ない…。だって考えが読めない人なんだもん!」

 今日無断欠席したことを芽衣は知って驚いた。あんなに馬鹿正直に登校だけはしていた霧生が、何の連絡もなしに休むとは…。しかも担任の先生も、何も言われてないらしい。

「はー、呆れるわ。自分勝手もここまでくると病気だわ。唯一の治療法は死ぬことね」

 昼休みに彼女らは、霧生の陰口を叩いていた。

「小峠興介、蘭真菰。そしてそっちの子は…楠芽衣とかいったっけ? 会うのは初めてだけど存在は聞いてる」

 近くで声がした。聞いたことのない声の主は、他校の制服を身にまとっていた。海百合であった。

「誰だ、お前?」

「そんなこと、どうでもいい。でも二人とも、負けたからって寝返るなんて…本気で死にたいの?」

 淡々と言ってのけるその態度に、三人は寒気すら感じた。

「まず名乗れよ。無礼なのはそっちだろう?」

 海百合は、はあ、とため息を吐くと、

「もういい。役に立たないなら捨てるまで」

 と言って式神を召喚した。

「こ、この子、召喚師だわ!」

 真菰たちの反応速度は素晴らしく、すかさず自分たちの式神を出してみせる。これには海百合も身構えた。

「ふーん。やるにはやるんだ? でも霧生ごときに負けた人たちにアタシが苦戦するとは思えない」

「霧生が? まさか…」

 既に手にかけられたの、と芽衣は続けようとしたが、

「スタコラ逃げてったあんな負け犬、どうでもいい」

 と遮られた。

 興介は竹刀を海百合に向けた。既に[ハーデン]のチカラで硬くしてあり、これで戦うつもりだ。クルッと振って挑発までしてみせる。

 真菰は[ドレイン]を十数匹出した。この中で氷を生み出せるのは一匹だけだが、みんな姿が同じなので、ピンポイントで狙われることはない。

 芽衣は[ディグ]を足元に落とした。

「準備はもういい? さっさとはじめてパパッと終わらせる。逆らう奴はいらない。あの男もそう言っていた」

「あの男?」

 首を傾げる芽衣に対し海百合は、知る必要はないと切り捨てた。

「みんなここで始末する。アタシの[リメイク]にはそれができる」

 召喚された式神は鋭い牙と爪を見せびらかしながら、何やら海百合と会話をしている。海百合は、相手の個々の式神のチカラを式神に教えているのだった。

 恐る恐る興介は前に出た。竹刀が届く距離まで近づかなければ意味がないからだ。逆に言えば近づきさえすれば確実に打ち込める自信が興介にはあった。

 それに対する海百合の行動は、霧生の時と同じであった。筆箱を出すと同時に[リメイク]のチカラで拳銃に変える。

「剣が銃に勝てる? わけ、ない」

 躊躇なく興介に向けて発砲する。だが弾丸は興介の顔に当たると同時に弾かれた。

「危ないな…。あと少し[ハーデン]が遅かったら死んでいた! 間一髪、顔の皮膚を硬くさせて、何とか防げたぜ…」

「なるほど。どうやらこれは霧生にもキミらにも通じないみたいだね」

 海百合は拳銃を元の筆箱に戻させると、仕舞った。次は飴玉を出した。

「これはどう?」

 飴玉は[リメイク]に触れると、小さいながらも手榴弾に変わる。もちろん威力は相当にあり、爆発をくらえば怪我では済まされないだろう。それをわかっていて海百合は、興介の足元に向かって放り投げた。その小さな手榴弾は地面をコロコロと転がったが、爆発する前に突然開いた穴に落ちた。

「………。役に立たないと思ってたのに、余計なことを」

 芽衣の[ディグ]が穴を開けていた。地中深くへと一瞬で掘られた穴の中で手榴弾が炸裂しても、地上にいる芽衣たちには何の影響もない。

「まずはその式神から片付ける。[リメイク]、探して」

 だが[リメイク]はいつまで経っても見つけられずにいた。[ディグ]は既に地中に移動用の穴をモグラのように掘っており、そこを進んでいる。モグラはトンネルを進むスピードは速いが、土を掘り進む速度は遅い。しかし[ディグ]なら一瞬で穴を開けられる。だからいくら土を掘っても[リメイク]には、探し出せないのだ。

「どうしたの? 居場所がわからないの? ならやることは一つしかないじゃない」

 海百合の答えは簡単だった。[リメイク]は芽衣のことを睨んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る