第十四話 境界の最終戦

その一

「睡蓮から手に入れた情報は、これだ」

 霧生は放課後、自分の教室に芽衣たちを集め、作戦会議を開いた。黒板に雨宮のことについてまとめを書く。

「直接繋がっている召喚師はおそらく四人。[リメイク]の海百合、[リカバー]の姫百合、[リセット]の尚一、そして[リライト]の睡蓮だ。もっといるかも知れないが………。榎高校を襲ったのは巴と灸だけだったんだな?」

「ああ」

 興介が頷く。

「と、いうことは…だ。動かせる召喚師は、今は多くないということ。攻めるなら今がチャンスだ」

「でも逆にそれって、こっちも後がないことがバレない? もし撃退されたら、本当に終わりだよ…?」

 熾嫩がマイナスなことを言う。

「元々終わってたようなもんだろう? 何も失いやしないさ。僕は賛成だ」

 第助は、霧生の考えに頷いた。

「まー、私もだわ。また誰かやって来ることを考えると、面倒って感じよ。元凶を叩くのが一番だわ」

 真菰も第助と同じ意見だ。

「なら、一気に行くだけだぜ! なあ、霧生?」

 霧生の胸をドンと叩いて興介が言う。

「よし。じゃあ明日にでも行くぜ。早い方がいいだろう?」

「作戦は?」

 芽衣の問いに霧生は、

「式神を召喚して攻撃、だ」

「何その脳みそ筋肉大作戦?」

「雨宮の式神がわからない以上、これで行くしかないだろ!」

 芽衣は、反論しなかった。他に良いアイディアを思いつけなかったからだ。

 この日はこれで、解散となった。


「さてと」

 霧生は一人、地図を広げた。芽衣たちには明日行くと言ったが、戦いに巻き込みたくなかったので、今から一人で行くのだ。

 一見すると無謀に見えるが、霧生はそうは考えていない。今までの経験と、自分の式神。その二つが彼を支えているのだ。

 数分歩けば、雨宮が潜んでいるアパートについた。カーテンこそかかっているが、ほんのわずかだが光が漏れている。それはつまり、今そこにいるということ。

「ようし、[リバース]!」

 換気扇の隙間、新聞受けの口を通して、[リバース]のチカラで生み出したスズメバチを侵入させた。大量の消しゴムを消費したが、その代わりに凄まじい戦闘力を誇る軍隊が手に入った。

 アパートの一室が何やら騒がしい。きっとどこからもなく現れたスズメバチに驚いているのだろう。

(出て来るか? 式神のチカラか力量が高ければ、あれぐらい捌くのわけないかもな…)

 しかし霧生の心配とは裏腹に、ドアが開いた。

「何なんだ、この!」

 殺虫剤を撒き散らしながら、若い男が出て来た。

「あれが雨宮か! [リバース]、蛇をくれ!」

 ここまで来てコソコソ隠れながら戦う、なんてことはしない。蛇を掴むといつでも投げられるようにし、出て来た男に近づいた。

「そこまでだ、雨宮!」

「雨宮? 何だお前は?」

 男は、キョトンとしている。

「とぼけるなよ。俺たちが何度死にかけたことか。ここまで来るのに、随分と苦労したんだぜ? 本当はみんなでボコボコにしてやりたいけどな、それはちょっと気が引ける。だから俺だけで来た!」

「……さては噂に聞く、霧生嶺山だな? そうだろう?」

 霧生は頷いた。

「なるほど。お前がここまで来たということは、だ……。海百合たちが敗北したということか。やっぱりアイツらに頼らない方がいいって俺は言ったんだ。言わんこっちゃない」

「おい、誰に向かって喋っている? お前の目の前には、俺しかいないぜ?」

「雨宮に向けて、さ。俺は日比谷堤。残念ながらお前が目指した住所は、俺のところだ。万が一こういうことになった時、つまりは誰かが藤四人衆の連絡網を勝手に覗いた時、俺のもとにたどり着くように仕組んである」

 この男は、堤であった。霧生がここまで来たということが何を意味するのか、堤にはわかっていた。

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