第十二話 黒幕の目的

日霊の[シール] その一

「な、何だと?」

 休日、ショッピングモールを訪れた霧生を、敵の召喚師が襲ってきた。まさかこんなプライベートにすら、召喚師に粘着されるとは夢にも思ってはいなかったのだ。

「私は美田園みたぞの日霊ひるめ。霧生嶺山! あなたの力を確かめさせてもらうわ」

 そんなことを勝手に…。と思う霧生だったが、狙われていては安心できない。ここは立ち向かって、勝利するしかない。

(店内で[クエイク]のチカラを使うわけにはいかないな…。ここは、[リバース]で切り抜けなくては!)

[クエイク]のチカラは強靭なものではあるが、屋内で使わせるわけにはいかない。狙いは定まらないし、他の大勢の客に迷惑がかかってしまう。

 次に、相手の確認だ。どうやら同じフロアにいるのは、あのロングヘアーの少女だけらしい。だが一人だけという保証はない。警戒は常にしておかなければ…。

「あのさあ。俺としては、女性と戦うのは気が引けるなぁ。何か頼みごとがあるなら何でも聞…」

 そんなことを言っていたら、日霊の式神らしき青緑のワニが、棚に並んでいた商品を投げつけてきた。あと一歩右にいたら顔面に直撃していた。

「なるほどね。じゃ、やるしかないってことか」

[リバース]を召喚した。飛ばしてきた商品は、生物にしてそのまま返す。イノシシに変わると、日霊に向かって突き進む。

「それが[リバース]のチカラなのね。でもそんな動物、私の[シール]の敵じゃない」

 ワニらしく、[シール]は口を大きく開くとイノシシを噛み砕いた。

(アレに挟まれたら俺も[リバース]もアウトだな。距離を置いて攻めるか…)

 今度は、スズメバチを生み出させる。いつも使う生き物だが、純粋に頼りになる存在だ。式神に毒は効きそうにないので、不本意ながら日霊を狙わせる。

「こんな小細工…。[シール]!」

 鋭い尻尾がうねると、スズメバチは落とされた。

(チマチマ攻めるのはなしだな…。あの式神、飛び道具は効果がなさそうだ。だが! 式神のチカラがわからない状態で近づくのは得策じゃあないが…)

 ここで霧生は、賭けに出た。相手のチカラが不明というリスクを度外視して、[リバース]に直接攻撃をさせるのだ。勢いよく飛ぶ[リバース]に乗って、一気に日霊との距離を縮めた。

「来たわね、霧生! 勝負よ」

[シール]が口を大きく開いた。[リバース]の牙の方が見劣りする。だが爪は、常に宙に浮くことができる[リバース]の方が有効活用できるはずだ。

「くらわせろ、[リバース]!」

 スピードは[リバース]の方が速かった。瞬時に閉まる大きな口をかわし、背中を鋭い爪で切り裂いた。

「む?」

 不自然なことに、[シール]は叫び声を上げない。平然としている。

「何だ、あのクラゲは?」

 その存在に、今気がついた。[シール]の背中を埋め尽くすかのように、クラゲが貼り付いているのだ。[リバース]の爪はそのクラゲを引っ掻いただけだった。

[リバース]は今度は、噛み付いてみる。クラゲが邪魔なので、先に片付けようとした。しかしいくら噛んでも、クラゲが砕け散ることはなかった。逆に青緑から赤く変わる。

「どうなっているんだ、あのクラゲは? あれも式神か!」

 しかも異常に丈夫だ。

「[リバース]! 一旦距離を取れ!」

 しかし、霧生の指示よりもクラゲ型の式神の方が先に動いた。長い触手で[リバース]の腕に絡みつくと、なんと突然、爆発した。

「ギャオオオオオオン!」

 腕を抑えて痛みを堪える[リバース]。そしてその隙を突かれ、[シール]に噛みつかれた。

「[シール]! 思いっきりやりなさい!」

[リバース]を咥えたまま、[シール]が体を横に回転させた。

「ワニのデスロールってやつか…。マズい」

 解放されると同時に、商品棚に吹っ飛ばされる[リバース]。棚が陳列してある商品ごと倒れ、周りの客が騒ぎ出した。それでもお構いなしに、日霊と[シール]は[リバース]に歩み寄る。

「それで勝ったつもりとは、失礼ながらお笑いだね。さあ、チカラを見せつけろ、[リバース]!」

 床に散乱している物は、全て生物に変えられる。この大勢の攻撃を受ければ、日霊たちもたまったものじゃないだろう。絶対にいける。霧生はそう確信させられる。

「無駄よ。既に私の[シール]のチカラを使わせてもらった」

「何ぃー?」

 生物に変わらない。[リバース]は物に触れているというのに、物は偽りの姿のままなのだ。

「どうなっている?」

 霧生は真っ先に、[ハーデン]のチカラを思い出していた。物を硬くでき、その状態を保てる[ハーデン]のチカラを受けた物体には、[リバース]のチカラは効かない。それと同じ現象が、今起きているのでは? 直感でそう考える。だが同時に、

(いや、待て…。[シール]よりも先に[リバース]が物に触れられているはずだ。[ハーデン]の時と同じなら、[シール]があらかじめこれらの商品に触れていたのか? そんな面倒なことを? 俺がここに来るかどうかもわからないのに……)

 とも考える。

「どうやら、困惑しているみたいね。それも当然! 私の[シール]はパワーもさることながら、触れた式神のチカラを封じることができる! だから[リバース]はチカラを使えない!」

 それが[シール]のチカラであった。

「へえ。でもまだあるだろう? その背中のクラゲ。あれも間違いなく、式神だ。さっきの様子から察するに、[リバース]の攻撃を無力化できる類のチカラかな?」

「ご名答。これは私の式神ではないけれど…。名前は[アブソーブ]。チカラは物理的な衝突によって発生したエネルギーを吸収し、解放できる。それは式神にだって有効。もっともそれをするには[アブソーブ]一体を犠牲にしないといけないけれどね」

 日霊は、二つの式神を使用していた。しかもそのチカラは非常に相性がいい。

 式神のチカラを封じ、無理矢理接近戦に持ち込ませる[シール]。

 受けた攻撃をエネルギーとして吸収できる[アブソーブ]。

「[シール]で式神のチカラを封じて、[アブソーブ]で直接的な攻撃も封殺するって作戦か。隙がないのは面倒だな」

 霧生は一度、[リバース]を札に戻して周りの客に紛れ込んで逃げた。距離を取れば[シール]のチカラが解消されると思ったのだ。だが屋上の駐車場に逃げても、[リバース]のチカラが復活することはなかった。

「どうやら、一度術中にハマると抜け出せないらしいな…」

 悠長に考察している暇もない。戻って日霊と決着をつけなければならないのだ。

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