第十一話 試練の裏で

希美の[ボイル] その一

 霧生と尚一の戦いが行われている間、榎高校は騒がしかった。

「キミたち、わかってる?」

 海百合の声は、冷たく響く。話し相手は仲間ではあるものの、だからといって優しくする理由はない。

「わかってますよ。霧生たちの勢いを止めればいいんでしょう? 簡単なモンです」

 陣内じんない良和よしかずは頷いた。海百合の性格はわかっているので、手伝ってくれと言っても無意味だろう。

「そうじゃない。失敗は許されないってこと。それに希美、キミも」

 良和の隣には、安原やすはら希美きみ。彼女も海百合の子分の召喚師だ。

「ちょっと心配性が過ぎるんじゃない? 少しは私たちのこと、信頼しなよ? そう簡単に負けるように見える?」

「見えるから言ってる」

 内心では、海百合は焦っているのだ。姫百合の手下の巴と灸が勝手な行動をとったことを聞いた。この二人もいつ、暴走するのかわからない。

「いい? もう手加減はいらない。邪魔な奴は片付ける。それだけで十分。今日は尚一が霧生と芽衣を直接叩くことになってる。だからキミたちは他の雑魚を潰す。アタシの目的の邪魔をさせないためにも」

「了解」

 良和はそう返事をした。だが心の中では、そんなに邪魔だの雑魚だの言うなら、自分が直に行けばいいのに、と思っていた。しかしそんなことは口が裂けても言えないので、黙って榎高校の校舎に向かう。

「海百合は海百合で、何かやることでもあるの?」

 希美は聞いたが、

「関係ないでしょ、さっさと行って」

 と、あしらわれてしまった。

「ねえ良和、何か作戦はあるの?」

「二人で力を合わせるのは、最後の手段に取っておきたい。万が一逃げる羽目になったら、海百合に半殺し…で済めばいいけど、それは避けたいからね」

「じゃあ分かれて奇襲?」

「そうだ。相手は興介、真菰、第助、熾嫩の四人。こちらは顔はわかってるが、彼らは俺たちのことを知らない。上手く行けばこちらの存在に気付かれずに倒せるかもだ」

 良和はポケットに、札の他に釘を忍ばせている。希美は水鉄砲を入れている。それぞれが式神のチカラによって、強力な武器になるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る