真菰の[ドレイン] その四

「霧生…。どうやって勝つつもりなんだ?」

 自習室の隅で、[ハーデン]を盾に身を守る興介。彼もプラズマが怖いため、ゴミ箱に手をかけるのはやめた。

「思い知らせてやるわ!」

 また違う[ドレイン]が、今度はまた違う行動に出る。脚と脚の間に氷が現れ、それが砕けると自習室全体に拡散する。

「今度は氷のチカラか!」

 多彩な手を打てる式神を相手にして長期戦は無謀だと霧生は判断した。

「まだか? いや、もうそろそろだな」

「何が、よ? 寝言は昼間に言わないで欲しいわ!」

 その時に真菰は、足元に穴が開いていることに気がついた。

「え? こんな穴、どうしてここに? でー、でも、芽衣の式神なんて怖くはないわ!」

 そしてそこから出て来るものがいた。それは[ディグ]ではなかった。

「ゴミからじゃないと生み出せないんだよ流石の[リバース]でもな。プラズマを持ち出された時は焦ったが、消し炭もゴミだし、まあ大丈夫だった」

 穴から顔をのぞかせたもの。それはゴミムシだった。

「きゃー! ナニコレ? 気持ち悪いわ! キモいキモ! [ドレイン]! この醜い虫を攻撃しなさい!」

 二匹の[ドレイン]がプラズマと氷を、ゴミムシに向ける。

「苦労したんだぜ? そうはさせない!」

 蛇と犬とイノシシを力任せに、[リバース]に投げさせた。[ハーデン]のチカラで硬くさせられていたため、何度壁に叩きつけても元の姿に戻らなかったため、妨害手段に使えた。プラズマも氷も、的外れな方向に飛ぶ。

 ゴミムシが真菰の足に引っ付くと、彼女はさらに大声で叫ぶ。顔も真っ青になっていく。

「きゃああ! 何なのよコレ! 気色悪い感触だわ! 私の足に触らないで欲しいわ! 離して欲しわ! 汚いわ! 穢らわしいわ! やめて欲しいわ! 嫌ぁ、嫌だわ!」

「教えてやろう。ミイデラゴミムシはケツの先から、百度以上のガスを爆発的に噴射する。百度以上だぜ…そのストッキング越しでも熱は感じるだろうな。美脚を汚すのは忍びないが仕方ない。君が負けを認めて式神を札に戻してくれたら、攻撃は[リバース]にやめさせよう」

「何ですって、ガス? 百度? ふざけないでよ、そんなの浴びたら…」

 霧生はゆっくりと頷いた。本当はミイデラゴミムシのガスでは、染みができて悪臭がするだけで火傷はしない。だが今はあえて黙っておく。

「[ハーデン]のチカラは防御よりだがよ、流石に化学変化は防げねえんじゃねえの? なあ、興介?」

「なるほど。屋上にゴミは捨てられてないからあの時は使えない手ではあったってことか。確かに物理的に硬くはなるが、化学的に強くなるわかじゃないしな…」

 二人は黙った。あとは真菰に判断させるだけである。

「うぐぐ、この…」

 足に力が入らないのか、その場に真菰はうずくまった。式神も札に戻した。

「終わり、だな!」

 真菰は負けを認めたのだ。


 霧生は真菰のそばに駆け寄ると、手を差し伸べた。

「さあバトルは終わったんだし、一緒に遊びにでも行こうか?」

「そ、それは、頷かないといけないの?」

 いくらなんでも横暴だと感じた芽衣は霧生に、手を引っ込めさせた。

「それはやり過ぎじゃん! かわいそうでしょ!」

 ついでに腕を引っ張って自習室から一緒に退散する。

 残された興介は真菰の事情を聞いた。

「…となると、真菰も脅しがあったわけだ。なんて言われた?」

「家族を殺すって言われたわ」

 興介も同じことを言われたのだ。そしてその時、不思議と恐怖心が膨れ上がって呼吸も乱れ、言うことに従うしかなかった。

「でも、まあ…。負けちゃったらもう関係ない。俺の家族も普通に元気だ。弱い召喚師には、用はないんだろう」

 真菰は周りを確認した。特に自分を見張るものはいない。

「そうみたいね。ふー、何か、凄く疲れたわ…」

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