2.色のある世界

 マナツ。

 

 目がさめたらぼくはまた、この名前を忘れてしまうだろう。

 マナツ。

 ここはどこなんだ?

 ぼくの背たけほどもあるひまわりが、どこまでも続いて……

 空が、青い。

 なんだろう、この気持ちは。

 青い空。

 とても気持ちが、いいんだ。

 

 おじいちゃんの絵本でよく見たっけ。青い鳥のお話し。ぼくはとてもすきだったけれど、あの青はどうしてか、かなしかった。

 おじいちゃんのお気に入りだった、青い花のお話し。あの花の青は、もっとかなしかった。どうして人は皆、そんなにかなしい青をもとめるの。

 

 海というもののお話しも、何度か聞かせてくれたことがある。それは、お話しのなかだけじゃなくて、本当にあったものだって。水がただどこまでも、広がっている。どこまでも、深く…… その海も、青い。深ければ深いほど、青い。そしてその底は、暗くて、静かで、時間がとまったみたいな場所だって。ぼくはそれを聞いて、やっぱり青はかなしいんだって、思った。

 

 ぼくらの世界に、青はなかった。

 

 ぼくらの世界は、白黒だ。おじいちゃんの『図鑑』を見るまで、色なんてものがあるって、知りもしなかった。赤や黄や緑や、紫にピンクにベージュ…… ぼくは緑がすきだった。昔、世界には森というものがあった。そこには、たくさんの動物がいたらしい。ネズミやカラスやクロネコ以外にも、たくさんの動物が。その動物たちにも、様々な色がついていたという。

 赤や黄やだいだい色は、火の色。人は、火によって世界を発展させてきたというけど、その果てに今のような世界にしてしまったのも火が原因なのだと、おじいちゃんは言っていた。火はもともとは、命のみなもとである「神様」のものだった。人間がその火を盗んだ。ぼくはこの色を見ると、気持ちがあたたくなったり、勇気がわいてきたりして、すきな気がした。ただ、青は、よくわからなかった。

 

 ぼくは色というものを知る前は、もっと気持ちというものに無頓着だった気がする。感情がもっとはっきりしていなかったような。

 

 青は、青い鳥や青い花のお話しを聞いたせいもあるかもしれないけど、ぼくをしずんだ気持ちにさせた。かなしい、という感情と合った。それは、ぼくにとってつらいものの気がしたけど、必要なものという気もしていた。

 

 今……風が吹いて、ぼくのほほをなでていった。

 ひまわりがいっせいにゆれた。

 この空は、とても気持ちのいい青。どうしてだろう。

 

 

 マナツ?

 きみはどこなんだ?

 

 ひまわりが、さわさわと、風にゆれている。あたりには、ぼくの影以外にだれのすがたも見えない。そこへふと、うしろからおおきな影が、ぼくの影をおおった。影はみるまに、ひまわりの原っぱ一面をおおってしまう。

 

 マナツ。どこにいるの、マナツ……

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