第12話vs魔王様!!

「ねぇ、トウマ。あんたこんなレアアイテムどっから持ってきたのよ。私でさえ見たことないアイテムまであるわよ。って、コレ『古代秘宝アーティファクト』じゃない!?」



「ん? だから会議の時に言っただろ。レアアイテムにはアテがあるって」



 魔王城スゴロク化プロジェクト開始から一週間が経過し、幹部はそれぞれに与えられた仕事を堅実にこなしていた。



 サモンは寝る間も惜しんでワープ設置に没頭している。

 リルは魔界牧場に適した魔物の選定に魔界中を駆け回っている。



 そして宿儺はオリジナルのカクテルを作るために一週間一睡もしていないらしい。



 まあ、それぞれのミッション難易度に差はあれどそれぞれがベストを尽くしていると言えるだろう。



 そして、そんな中、俺とフラムがこなしているミッションが



・魔界でしか手に入らないレアアイテムを欲しがる人間もいるんじゃない



 これだ。



 レアアイテムの入手はまだ気骨ある人間がいた時代は魔王討伐と並んで魔界に来る理由トップ3には入っていた。



 つまりこのミッションでそれなりの品を手に入れることができれば、再び人間を魔界に呼び寄せるための大きな手助けになるはずだ。



 そして幸いなことに俺はレアアイテムの在処(ありか)に心当たりがあった。



 なので、現在フラムとお互いに持ち寄ったアイテムを吟味している最中というわけだ。



「にしても、ほんとに凄いわね。私も一応頑張ったつもりだけど流石にこの量とクオリティのものは見つけられなかったわ。ん?」



 スゴロク景品用レアアイテムと書かれたホワイトボード前の机に積まれたアイテム達をまじまじと見つめていたフラムが突如として動きを止めて、あるアイテムに手を伸ばした。



「ねぇ、トウマ。このアイテムって」



「ああ、そいつは『スターライトリング』って言って、大層な名前をしているが、その腕輪をはめた奴はいつでも『フラッシュ』の魔法が使えるっていういわばハズレアイテムだな」



 なお、『フラッシュ』の魔法は単に辺りを明るくするだけだ。



「それは、知ってるわ。確かに能力的にはハズレだけどこのアイテムって魔界の有名デザイナーが設計開発した一点ものだったわよね」



「その通りだ。だが正直に言ってそのデザインは幼児向けだと思うけどな。銀色の腕輪に大きな☆の飾りが付いてるだけとかどんだけ手抜きだって話だよな。そんなのを欲しがる奴なんて相当精神年齢が低いお子様だけだろ」



「トウマ、私が言いたいのはそういうことじゃなくて、そのお子様デザインのこのリングをとても気に入って、一時期毎日のように着けてた人を私は一人知ってるんだけど」



「だろうな。あの時期は大変だったよな。あのチビロリ魔王のやつ無駄にこのリングを気に入って、魔王城の至る所で『フラッシュ』を発動させるから目がチカチカして大分視力が落ちた気がするわ」



 俺がヤレヤレといった表情で両手を広げて嘆息すると、目の前でフラムがワナワナと両手を握りしめて息をすった。



「トウマ!! アナタこのアイテム全部魔王様の宝物庫から持ってきたでしょ!!!」



「え? そうだが?」



 目の前でフラムが激昂した。一体何故そんなに怒るんだ。意味がわからず目を白黒させていると



「『え? そうだが?』じゃないわよ。どこの世界に自分の主君の宝を盗み出す魔王軍幹部がいるのよ。しかもこれよくよく見たら所々に魔王様のお気に入りの魔道具もあるじゃない!! 私が苦労して魔界のダンジョンに潜ったりして、レアアイテムを持ってきたのがバカみたいじゃない」



「人聞きの悪いことを言うな。盗んだんじゃない。ただ道端に落ちてたものを拾っただけだ。そもそも俺らにとっては、魔王城は居城でもあるが人間の視点から見たら魔王城は立派なダンジョンだ。お前もそうしたみたいに普通はダンジョンにある宝は持ち帰るだろ。 つまりルール的には魔王城の宝物庫のアイテムを持って帰ってもOKなはずだ。そうだろ?」



「いや、でも、魔王軍幹部のアナタが魔王様のものを盗むとなると話は違うような気がするんだけど」



「だから拾っただけだって言ってるだろ。それに俺はあのワガママ魔王には本当に苦労させられてるんだ。お前だって聞いたはずだぞ『どんな手を使ってでも人族がお金を落とすような仕組みをつくれ』ってな。『どんな手でも』と言った以上、俺の行為は正当化されて然るべきなんだよ」



 そもそも魔王城をスゴロク化するなんて言い出さなければ、わざわざ宝物庫のアイテムを盗む必要もなかったし、こんなよくわからないプロジェクトで俺が苦労する必要もなかったわけだ。



 つまり結論はあのチビロリ魔王が悪い!



 俺が拳を握って熱弁すると、今度はフラムが溜息をつきながら



「アナタはホントに色々苦労してるのね。気づいてないでしょうけど目が充血してるわよ。まあ、わかったわよ。でもこれ、魔王様にバレた時にどうなっても知らないわよ」



「安心しろ。魔王のやつの知力は1以下だ。多少宝物庫から物がなくなっても気づきもしないわ。あの三歩歩くと記憶を無くすで有名なコカトリスの方がまだましな記憶力をしてるぞ。ハハハハ」



 そもそもあの脳筋魔王は基本的に宝物庫に入ることはないからな。宝が減ったことに気付くことすらないはずだ。



 俺がそう言って笑っているとトントンと俺の肩が叩かれた。



 ん? フラムは目の前にいるからいったい誰だ?



 俺が頭を後ろに倒し、顔を覗くと、そこにはロングの金髪にロリフェイスのとても際どい衣装を着ている我らが主君、魔王シルフィ・リリーが立っていた。



「ま、魔王様!? なんでここに!?」



「うむ。それがな久々にあのバシューンッと光る超カッコイイ腕輪で遊びたくなって、宝物庫に行ったが見つからなかったのだ。トウマならどこにあるか知ってると思って探してたのだ。ん? アレは」



 その目線は先程までフラムが持っていた『スターライトリング』で固定された。



「おお。それなのだ。それなのだ。一体なんでこんなところにアレがあるのだ? というよりもあのアイテムの山はなんなのだ? なんとなくどこかで見た事もあるような気がするのだが……。む?」



 そしてシルフィの目はホワイトボードに書かれた



『スゴロク景品用レアアイテム』



 の文字をしっかりと映し出していた。



「おい。トウマ。まさかとは思うが余の宝をスゴロクの景品にしようとか考えておらぬか?」



「いえ、滅相もございません!!」



 癇癪かんしゃくをおこさず冷静っぽい声をしていることが怖い。これはヤバい。ヤバいぞ。



「では、なぜここに余の宝が山積みになっているのだ?」



「それは、宝物庫の整理をしようと思いまして、一旦持ちだしてたんですよ」



「では、あのホワイトボードに書いてあるモノはなんなのだ? どう考えても余のモノをスゴロクの景品にしようとしているようにしか思えないのだが」



「あれはですね。宝物庫の整理をしようとしていたところにたまたまフラムが来たので、それじゃついでに魔王城スゴロク化プロジェクトの話も進めようかと思って、あのように書いたのです」



「トウマの言ってることは本当なのか? フラム」



 ヤバい。チビロリ魔王の奴。フラムに話を振りやがった。



 突然話を振られたフラムは何かと葛藤するように、俺とチビロリ魔王を交互に見て目を白黒させながら、最終的には目じりに涙を浮かべ



「えっと、その、え、んーーッノーコメントでお願いします!」



 そう叫んだ。



 するとチビロリ魔王が何か言おうとしたところで、レアアイテムの山の中に埋もれていたあるアイテムを見てニィッと笑った。



 俺はその視線の先を見て凍り付く。



 そこにあったのは『メモリー・クリスタル』と呼ばれるアイテムだ。



 その効果はそのクリスタル周辺で起こった過去の映像を映し出すというものだ。つまりは俺がさっきフラムに言っていた我らが魔王様の悪口も再現される。



「ほほう。ちょうど良いアイテムがあるな。なぁ、トウマ?」



 ちッ、あれを使われたら終わりだ。



 格なるうえは……



「魔眼【明鏡止水】ィッ!!」



 見られる前にぶっ壊す!!!



 俺は一直線にアイテムが置かれていた机に走り出す。



 しかし机に辿り着いた瞬間、思わず身を固める。



 何故ならつい先ほどまで確かに机の上に置いてあったはずの『メモリー・クリスタル』がなくなっていたのだ。



 困惑してチビロリ魔王の方に視線を向けると右手が何かを宙に放り投げたような形で止まっていた。



 そしてその先を見ると遥か空中で一つのアイテムが静止していた。



 マジか!? このロリ魔王、あの一瞬で俺がアイテム破壊に走ると踏んで空中に放り投げたのか、さすが身体能力チートの脳筋魔王だ。



 だが、今回ばかりは俺の魔眼がギリギリ上回った。



 俺は空中にジャンプして静止したアイテムに掴みかかる。



 そこで『明鏡止水』の効果が切れ、再び時が動きだす。



「えっ、トウマが上にいる!?」



 まずはフラムが空中を舞う俺をみて驚きの声を上げる。



「残念でしたね魔王様! あの一瞬で俺の行動を読み『メモリー・クリスタル』を空中に放り投げたことは流石です。ですが、僅かに俺の魔眼が上をいきましたね」



 そこで俺は普段のストレスと魔王を出し抜いた喜びから歪な笑顔を浮かべ『メモリー・クリスタル』を握りつぶす。



 ―――勝った!!



 俺が愉悦と共に勝利の味を噛み締めていると、チビロリ魔王が楽しそうに口を開く



「おいトウマ。何を言っておるのだ。余は『メモリー・クリスタル』を放り投げてなどおらぬぞ。ほれ」



 すると握りしめられていた左手を開いた。



 そこには間違いなく先ほど机においてあった『メモリー・クリスタル』があった。



「ふふふ、魔王を侮ったのうトウマ。お前なら絶対に上に投げたアイテムに気付くと読んでおったのだ。だからあえて右手で余が持っとった別のアイテムを投げ、本物はこうして左手に隠したのだ」



「ちょっと待て。じゃあ俺が握りつぶしたのはいったい……」



 ゆっくりと手を開くと、そこから意識を失いかける程の悪臭が襲ってきた。



「ぐぉぉおおおッ!? これは……」



「それは月間魔王の今月号の付録についてきたヘルスカンクのおならが閉じ込められたスメル・クリスタルなのだ」



 ヘルスカンクだと!? アイツの屁は弱い魔族だったら嗅いだだけでショック死することだってあるくらいの激臭だぞ。



 そして俺は悪臭に身悶えしながら、空中から落下していく。



 その最中で俺はとても恐ろしい光景を目にする。



 それは俺から奪ったメモリークリスタルを再生し、不敵に笑う魔王シルフィ・リリーだ。



「ふふふ、トウマ。お主の考えはようくわかったのだ。それを考慮したうえで余が判決を下すのだ」



 そう言って魔王様は右手で拳を作りそこに魔力を込め、煌々とその拳を輝かせ始めた。



「ちょ、ちょっと待って下さい魔王様」



「判決は『魔王の一撃』じゃ! ようく反省するがよい。ハッハッハ!」



 そう言って魔王様はホンっとうに心底嬉しそうな笑顔と共に落下する俺に右拳を叩き込んだ。



 そして俺は思いっきり吹っ飛ばされ、悪臭とともに意識を失った。



 次に目覚めた時、俺は自宅のベットの上だった。



 ふと視線をやるとそこには一通の手紙があり




 トウマ。一応自宅までは運んでおいたわよ。魔王様いわくトウマなら一日も寝れば回復するって言ってたけど、何かあったら連絡しなさいよ。それとレアアイテムは私が集めといたからトウマはゆっくり休むこと

                     フラム




 と書かれていた、。



 机の下には先日見せてもらったレアアイテムに加えて新たなレアアイテムが輝いていた。



 同僚と優しさと上司の厳しさに思わず涙したのは言うまでもないことだろう。




・魔界でしか手に入らないレアアイテムを欲しがる人間もいるんじゃない

→クリア!!

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