第10話 VS 火口に潜むモノ

「アチィ~こんな溶岩地帯に住むなんて頭おかしいだろう」


「ははは。私のご主人様のために魔王軍№2のトウマ様にわざわざこんな火山地帯にまで来て頂いて恐縮です」


 俺の目の前でウサギ耳の半獣人ピコが苦笑いをしながら頭を下げてくる。


「いや、まあいきなりあんな訳の分からん手紙を出したんだ。直接話をしたいっていわれる意味も分かるから特に問題はない。で、まだこの火山は登らないとお前の主のえっとぉアルムガルムドドガには会えないのか?」


「いえ、もうすぐ着きますよ。それと私の主の名前はドスガガガゴンガ様です」


「おお、そうか悪いな。本人の前では間違えないように気をつけるよ」


「ええ、お願いいたしますよ。でもあの手紙はどういう意味なのですか? ご主人様にスゴロクのイベントになってほしいというのは」


 この当然ともいえる疑問に俺は事のあらましを説明する。


 あの会議のあと俺がまずやったのは数多の書状の作成だ。書状の内容は端的にいうと魔王城のダンジョンをスゴロクに改造するから協力してほしいといった内容だ。


 まあ、改めて思い返しても我ながら全くもって意味のわからん書状だと思う。


 だが意外なことに、一応魔王軍幹部からの書状だからか、素直にYESの解答をしてくれたものが多かった。


 しかし当然ともいうべきだが、中にはこのピコの主である、えっとぉ、ディンゴボンゴコンゴみたいに直接話を聞きたいというやつも現れるわけだ。


 そういった奴にはなるべく話をしようというのが今回の俺の方針というわけだ。


 ちなみにティンコポンコポッコに担当してもらう案件は人間たちとのバトルイベントだ。


どうやらピコの主であるこいつは中々の手練れらしいので戦闘欲の高い人間の需要にも十分こたえることが出来るはずだろう。


 俺がそんなことを考えながらピコについて行くと


「あ、いらっしゃいました。あちらがドスガガガゴンガ様です」


「なるほど。確かに強いな」


 ディンコティンコポコポコは一言でいうと巨大なトカゲだった。


 しかしただのトカゲではない、その肌は岩のようなもので出来ており、中途半端な攻撃では傷一つ付けられそうにない。


 さらにディンコティンコが4つの足で踏みしめている地面はシュウシュウという音ともに煙を上げ、その表層を溶かしている。


 つまり、あいつ自身が超高温の身体を持っていて下手に物理で攻撃すると逆に自分がダメージを喰らってしまう。


 うーむ。そこそこ強いヤツを探してたんだがちょっとこいつは強すぎるな。


 だがその滲み出る強さよりももっと気になることがある。それは


「おい、お前なんで俺に向けてそんな殺気を放ってんだ?」


 そうこいつは俺に対して並々ならぬ殺気をぶつけてきていることだ。


 とてもじゃないが話し合いをする雰囲気じゃない。


 俺がそう言ったときだった。


 目の前のティンコティンコポコがその口を開けて獄炎のブレスを俺らに向けて放った。


「え? ドスガガガゴンガ様? なんで?」


 俺の横で呆然とした表情でピコが呟く。


 その言葉は岩肌を荒々しく削りながら迫るブレスの音にかき消される。


 そして程なくしてブレスは俺達を飲み込んだ。


「くっ、くっ、くっ。かーかっかっか。討ちとった。魔王軍幹部を討取ったぞ。常々思っておったのだ。このドスガガガゴンガ様を差し置いて偉そうに魔王城にふんぞり返っておるうつけ共をいつかこの手で葬ってやりたいと。所詮は魔王シルフィ・リリーの腰ぎんちゃく共よ。魔界は本来ならば強さが全ての世界。たかが腰ぎんちゃく如きは生きることすら許されないのだ。弱者は消し炭になるのが運命なのだ」


「なるほどな。弱者は生きることすら許されないか。全くもって魔族らしい考え方で俺は否定しない。従って、俺ら魔王軍幹部を屠って自らの強さを証明しようとする気持ちもわからなくはない。だが、そのために自分の部下の命を犠牲にしようとするその考えには虫唾が走る。真の強者は部下の命など犠牲にしなくても自らの強さで道を開くものだろ?」


「ッツ!?」


 燃え盛る獄炎の中から俺が声を掛けると炎の向こうでトカゲが息を飲む。


「バカな!? なぜ生きておる。それにその焔(・)はなんだ!? わしの獄炎を受け止めるだと」


 トカゲの獄炎は俺とピコの周りを取り囲むようにして燃えている紅色の焔によって、その動きを止めていた。


「受け止める? 何を言ってんだ。まるで俺の焔とお前の炎の威力が拮抗しているみたいな物言いだな。笑わせるな」


 俺はそこで指をパチンッと鳴らす。


 すると俺の焔がトカゲの炎をペロリと飲み込む。


 そして俺は焔を自ら手の平に集めてそれを軽くトカゲの眼前に放ってやる。


 するとトカゲの出していたものと比べ物にならない熱量が辺り一帯を支配し、一瞬のうちに大地をマグマと化す。


「ばかな。ばかな。ばかな」


「次はその身体にぶちあてる。多少は炎に耐性はあるみたいだが一体どこまで耐えられるかな」


 俺は普段の黒色から深紅色に変わった左眼でティンティンコを見据え、口の端を吊り上げた。

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