第47話 少女の決意
「何あれ?スライムなの!?」
クレアが両手を口に当てて叫んだ。巨大な軟体生物は、血を這うように不気味にその身体を動かす。クレアの言う通り、それは巨大なスライムに見えた。
「なら楽勝じゃん!俺が一撃で蹴散らしてやるよ!!」
イバトが再び右腕を隆起させ、スライムに斬りかかろうとした。その瞬間、スライムの身体に眼球が浮き上がって来た。
「待てイバト!退がるんだ!!」
俺が叫んだ瞬間、眼球が怪しく光り白い光線が目から放たれた。光線は完全にイバトを捉えていたが、寸前でコルカがイバトを突き飛ばした。
光線は壁に当たり轟音と共に爆発した。塔の壁に大きな穴が空いた。あの光線、なんて威力だ!
「あ、ありがとうコルカのおっさん」
「礼は後だ!後方に退け!」
コルカの指示により、俺達はスライムから距離を取った。スライムは距離を置くと先程の光線を放って来なかった。
「······このスライム。近づかなければ、攻撃して来ない?」
ユリサがスライムを観察しながらそう呟く。仮にユリサの言う通りだとしても、あのスライムの横を通らないと登り階段まで行けない。
「おいクロシード。お前囮になれよ。その間に俺達は五階に行くからさ」
イバトが無慈悲な提案を自称貴族に言い渡した。
「ふざけるなこのガキ!!何故高貴の出の私がそんな下賤な事をしなくてはならないのだ
!!」
クロシードが額に血管を浮き上がらせ激昂した。その時、俺はイバトの言葉にヒントを得た。
「試してみたい事がある」
俺は皆にそう言うと、スライムの光線で破壊された瓦礫の一部を手に取った。
「何をする気だ?」
ザンカルが怪訝な表情で俺の方を見る。俺は手にした瓦礫をスライムに投げ込むと同時に走り出した。
瓦礫はスライムに当たる前に、再び眼球から放たれた光線に破壊された。俺はその間隙を縫ってスライムの横を走り抜けようとする
。
「危ない!!エリクのおっさん!!」
イバトの叫び声に俺は顔を横に向けた。そこには、スライムの身体から二つ目の眼球が浮き上がっていた。
「眼球は一つじゃないのか!?」
俺は自ら身体を前方に倒した。二つ目の眼球から光線が飛び出し、数瞬前に俺の上半身があった空間を通過した。
光線が壁に当たり、再び爆発音が轟く。俺は這いずるように後方に退がった。
「この分だと眼球が幾つあるのか分からんな
」
ザンカルが瓦礫の破片を腰の似袋に懐に入れる。魔法石の回収を終えたこの魔族には、もう俺達と行動する理由が無くなった筈だった。
「まあ成り行き上最後まで付き合うぜ。その聖竜とやらを守ろうとするお前達の方が、どう考えても正しいと思うからな」
ザンカルはそう言って笑った。少なくともこの場だけでもこの屈強な戦士が仲間になってくれる事は幸運だった。
その時、俺はモナコと目が合った。その目はいつもの不安げな目では無く、恐ろしく真剣な物だった。
「······エリクさん。以前にもお伝えしましたが、このままでは貴方には大きな災厄が訪れます」
モナコは小声で俺にそう言った。前にもモナコから感じた異様な感覚に襲われた。
「魔法障壁を張り通り抜ける。それしか無いのお。じゃが、それには魔法の使い手への信頼が不可欠じゃがのお」
ネテス老人が瞼を眠そうに開いた。俺達は一斉にクレアを見た。注目を一身に浴びた本人は、途端に大汗をかき始めた。
確かにネテス老人の言う通りだ。スライムの光線に障壁が破られる。それは俺達が全滅する事を意味していた。
「おいクロシード。お前は魔法障壁使えるのか?まあ使えたとしてもお前の障壁には入りたくないけどな」
「だったら最初から聞くなこのガキッ!!私の魔法は攻撃専門だ!私に障壁などと小賢しい魔法など必要ないのだ!!」
イバトの嫌がらせとしか思えない質問に、クロシードは大人気なく怒りを露わにする
「······やれるか?クレア」
俺は赤毛の少女に静かに問いかけた。
「······やってみる。ううん。必ずやる。皆を無事に五階まで連れて行って見せるわ」
いつもの挙動不審的な答えをせずに、クレアは決意に満ちた表情で力強く答えた。
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