第40話 地下階段
「な、何よこの揺れ!?じ、地震?地震なの
!?」
クレアがコルカの足に掴まりながら叫ぶ
。突然起こった地面の横揺れは、立ち続ける事が困難な程大きかった。
「見ろ!岩壁の一部が崩れて行くぞ」
コルカがクレアを支えながら岩壁を指差す
。コルカの言う通り、俺達の丁度正面の岩壁が崩れて行く。
いや。あれは崩れると言うより割れている
のか!?俺達はこの地震のような揺れに対し
、姿勢を低くしてやり過ごそうとした。
「······揺れが収まっていく」
ユリサが小さな声で呟いた。彼女の言う通り、激しい揺れは急速に小さくなって行く。
「よし。あの崩れた岩壁に行くのじゃ」
ネテス老人の指示により、俺達は岩壁に近付く。すると、岩壁の崩れた箇所に空洞が出来ていた。
「これは地下階段か?」
まだ舞い散る砂埃を手で払いながら、魔族の男は空洞の下に出現した階段を見て呟く。
「そうじゃ魔族の騎士よ。お前さんの欲しがっている魔法石はこの階段の下にあるぞい。
腐るほどな」
ネテス老人はユリサの背中から魔族の男に陽気に話しかけた。
「······腐る程は必要無い。魔法石の杖を作る分だけあれば十分だ」
魔族の男がそう答えると、イバトが男にすかさず質問する。
「ねえ魔族の兄ちゃん。なんで休暇中なのに魔法石が必要なの?なんで?」
魔族の男はイバトの勢いに少々辟易している様子だった。
「坊主。その魔族の兄ちゃんってのは止めろ
。俺にはザンカルって名がある。魔法石は俺の幼馴染に頼まれたんだ。旅行ついでに探して来いってな。ったく。タイラントの野郎。面倒な事を言いやがって」
ザンカルと名乗った魔族に、イバトは嬉しそうに自己紹介する。
「俺の名前はイバト!よろしくねザンカル兄ちゃん!早速だけど俺に剣を教えてくれない
?俺、勇者になりたいんだ!!」
イバトのまくし立てる口調に、ザンカルはいよいよ鬱陶しそうな表情になって来た。
「おいイバトとやら。お前は早速過ぎだ。大体お前等は何の目的でここに来たんだ?」
ザンカルの返答に、ネテス老人が口を挟む
。
「話は階段を降りながらじゃ。長い下りの階段じゃからその時間は十分にあるぞい。ほれ金髪の娘。さっさと階段を降りるのじゃ」
ネテス老人に促され、俺達は不安を感じつつも階段を下って行った。階段の幅は広く
、大人二人が並んで歩ける程だった。
松明を持ったコルカを先頭に、ネテス老人を背負ったユリサと俺、ザンカルとイバト、クレアの順に降りて行く。
少し間を置いてからクロシード達が後を追って降りてくる。
「あの白い竜が世界を滅ぼす聖竜?その聖竜を天界に逃がす為の塔を目指している?」
イバトとクレアの説明に、ザンカルは呆れたような口調で答えた。無理もない。関係者である当の俺ですらこの事態に難儀しているのだ。
コルカの腕に眠る小さい竜が世界を滅ぼす力を持つなど、にわかに信じられる物では無かった。
「······長い階段だな。一体何処まで続くんだ
」
先頭のコルカが俺達一同が感じている不安を代表して言ってくれた。入り口はとっくに見えなくっており、俺達は地の底まで降りて行くような感覚に襲われた。
「······ネテスさん。地底人や私の仲間達は追いかけて来るでしょうか?」
ユリサが背中におぶっている老人に不安そうな口調で質問する。
「必ず来るじゃろな。連中はずっとお前さん等を遠くから監視しておった。時間を置いて追って来るじゃろて」
ネテス老人の言葉を聞きながら、俺はこの老人が一体何者なのかを考えでいた。本人は聖竜の卵を奪った罪を謝罪しに来たと言っていた。
この岩壁の階段が出現する条件に、夏至と聖竜が揃う必要があるとも言った。このネテスと言う老人。
この階段を下るのはどう考えても初めてでは無い。この先に何があるのかこの老人は知っている。
「······階段が終わるぞ」
コルカはそう言うと階段を降りきった先を歩く。俺もコルカの後を追った。
「······何だこれは?」
俺は目にした光景に驚愕した。地下の底に、巨大な空間が広がっていた。
「あ、あれ見て!!塔だよ。塔がある!!」
イバトの叫び声が地下空間で響いた。巨大な空間の中央に、白い塔がそびえ立っていた
。
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