第12話 戦いの後

 魔物達との戦いは終わった。我々警護の任についた八人の冒険者は、無事生き残った。

だが、全員呆然としながら金髪の美少女を見ていた。


 それはそうだろう。警護すべき相手に自分達が助けられたのだ。一体どちらが警護人か分からない。


 ユリサ嬢はそそくさと馬車の中に戻った。

疑念の表情をしたクレアが、ユリサに近づいた。


「······あなた、なんで警護人なんて依頼したの?全く必要ないでしょ?」


 クレアは得意の空気を読まない発言をする

。だが、この時ばかりは俺も心から同感だった。


「······その。両親に目立つ行動は慎めと言われているので、皆さんに警護をお願いしました」


 ユリサ嬢は俯いたまま失礼な質問に答えた

。なる程。良家のお嬢様が魔物相手に肉弾戦を繰り広げるなど、両親は止めて欲しいと言った所か。


 それにしても、このユリサ嬢のあの強さは尋常では無い。この美少女は一体何者なのか

。この警護に参加した冒険者達は、恐らく俺と同じ疑問を抱いている事だろう。


 ともかく、ユリサ嬢は自分のあの勇姿を見なかった事にしてくれと我々に願い出た。


 依頼主に助けられる失態を見せた我々に、断る理由は無かった。負傷した者達は応急処置を施し、隣り街までの移動は再開された。


 幸運にもその後、魔物にも野党にも遭遇せず、我々は無事隣り街に到着した。ユリサ嬢は丁寧に我々に礼を述べ、冒職安に依頼完了の手続きを行った。


 これで俺達冒険者は、受付けで報酬を受け取る事が出来る。税金を引かれ金貨十枚。これが、命の危険を冒して得た対価だった。


 報酬を受け持った瞬間、二人のガキ達が大合唱を開始する。


「エリクのおっさん!火傷が痛いよ。また神官呼んで治療してよ」


「エリクおじさん!私達の取り分は?正当な報酬を貰う権利はある筈よ」


 全くうるさいガキ達だ。予想通りの要求を耳にし、俺は用意していた答えを返す。


「馬鹿言うなイバト。神官に頼んだら幾ら取られると思っている。それとクレア。お前らは俺に借金がある事を忘れるな」


 毎日の宿代と食費。武具の手入れ代に薬草などの道具代。それら諸経費を引き、俺はガキ達に銀貨を二枚ずつ渡した。


 ガキ達はあからさまに不満顔だったが、俺が経費の計算を事細かく説明すると黙り込んだ。


 俺は冒職安を出た後、イバトとクレアを武器屋に連れて行った。


「イバト。お前の足は武器になる。自分の足に合うブーツを選べ。クレア。お前はもう少し性能のいい魔法の杖が必要だ」


 イバトとクレアに、ブーツと魔法の杖を新調させた。二人は新しい道具にまんざらでも無い表情をしていた。


「······俺。初めてだ。親以外に何か買ってもらったの」


 イバトが新しい革のブーツを触りながら、静かに呟いた。


「······私も。初めて」


 クレアも新しい魔法の杖を振りながら、微かに笑った。


 いや。買ったと言うか。この代金もお前らの借金に上乗せするつもりだったんだかな。


 二人の子供の嬉しそうな表情に、俺は少し考えを変えた。この先二人が役立つ働きを見せるなら、今日の代金は俺が身銭を切ってもいいと思った。


 仕事を全て終えた時、外はすっかり暗くなっていた。


 

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