第6話 少年の野望

「仮に無事生き残り、六割に入ったとしても

、五体満足で引退出来るとは限らん」


 引退した冒険者の約半数は、身体のどこかに障害を負っている。その身体で、残りの人生を暮らして行かなくてはならないのだ。


 俺の語った厳しい現実に、イバトは口をポカンと開けている。よし。コイツは馬鹿決定だ。


 クレアと言うと、不安一杯と言う表情をしている。そうだ。この少女は、そもそも何の為に一人で行動していたんだ?


 俺はクレアに旅の目的を聞いた。


「え?わ、私の目的?え、えーっと。私は魔法の才能が有り過ぎて、む、村の皆が冒険者になる事を勧めてくれたの······かな?」


 かな?って俺に聞いてどうする。この少女のあからさまな挙動不審。明らかに嘘をついている。


 大方、家出少女と言う所か?全く厄介な家出娘だ。ついでにイバトにも家族の有無などを聞いてみる。


「いないよ。父ちゃん死んで、その後母ちゃん死んだ」


 イバトの家族は住んでいた村人から忌み嫌われ、人里離れた場所でひっそりと暮らしていたと言う。


 ······そう言えばこのガキ、人間にしては耳が少し長いな。魔族の血でも混じっているのか?


「イバト。一応聞くが、お前はなんで勇者なんて大層なものを目指すんだ?」


 俺が大して興味なさ気にした質問に、イバトは目を輝かせて答える。


「別に勇者に固執してるわけじゃないんだ。俺は歴史に名を残したい。その方法を考えたら勇者になる。これが一番手っ取り早いだろ

?」


 ······十五のガキが歴史に名を残したい?俺は気が滅入ってきた。本格的に頭が悪いぞこのガキ。


「偉そうに!あの程度の腕前でよく言うわねあんた」


 クレアがイバトに噛み付いた。昨日、イバトとクレアが初対面した後、二人は口喧嘩になり、どちらが魔物を多く倒せるか競争したらしい。


 その結果が宿屋の入り口で行き倒れだ。本当に迷惑なガキ共だ。クレアに腕前をけなされたイバトは、猛然と反撃する。


「お前こそ火炎の呪文しか使えない癖に!しかもすぐに魔力切れ。お前、才能無いよ。村に帰った方がいいぜ」


 いや、帰った方がいいのはお前も同様だイバト。気づくとクレアが両目に涙を溜めていた。


「余計なお世話よ馬鹿!私はもう、帰りたくても帰れないのよ!!」


 大粒の涙を流しながら、クレアは席を立ち食堂を飛び出して行った。


「なんだアイツ?わけ分かんないよ」


 イバトが口を尖らせて不平を言う。


「おいイバト。俺達は短期間とは言え、パーティを組むんだ。メンバー内の不和は、集団行動に即悪影響を及ぼす。クレアに謝ってこい」


「ええ?だって俺、何も悪くないよ!?」


「人間関係を円滑にするには、非が無くとも折れなくてはならん時がある。これは債権者の命令だ。早く行け」


 借金の事を持ち出され、イバトは不満そうに立ち上がった。俺も一緒に食堂を出た。


 食堂の建物の前には公園があり、幸いクレアは公園のベンチに座っていた。


 


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