第3話 行き倒れの少年少女
夜の帳が降り、俺は教会を訪問した。もう閉まっていた教会で、迷惑そうな顔の神官に頼み込み、宿まで来てもらった。
神官は二人の子供に治癒の呪文を施す。神官の話では、派手に身体に血がついているが
、深手は負っていないので心配ないとの事だ
。
神官への報酬は高かった。通常の治癒料金に深夜時間外手当と出張費を上乗せされた。
俺は二人の子供達の荷物を改めたが、信じられない事にガキ達は無一文だった。
くっ!俺が払うのかこれ?神官が咳払いしたので、俺は仕方なく自分の懐から料金を支払う。
金貨の枚数を確かめた神官は、もう一度咳払いをした。そうだ。教会の神官達に料金を支払う時は、寄付と言う名目で一割増しで払うのが慣習だった。
仕方なく俺は寄付分を渡す。それを受け取った神官は「神の祝福があらんことを」と言い残して去って行った。
全てを平等に救う筈の神。それに仕える神官に物事を頼むと、やたらに金がかかるのは何故か。
二人の子供は傷は塞がったが、体力を使い果たした様子でぐったりしている。取り敢えず血と汗塗れの二人に共同浴室に入ってもらい、その間に俺は酒場に食料を調達しに行く
。
くそ!何で俺がここまでしなくてはならないんだ!?風呂上がりに飲む筈だった麦酒も飲めず、喉が酷く乾いていた。
パンと干し肉、果物を持ち帰った俺は、自分の部屋で二人の子供に食事を摂らせる。まるで大きな捨て犬を二匹拾った気分だ全く。
「エリクのおっさん。ご馳走になって悪いね
」
「エリクおじさん頂きます」
二人の少年少女は、貪るようにテーブルに置かれた食料を平らげていく。そんなに腹が減っていたのかコイツ等?
二人の子供が人心地ついた所で、俺は自腹を切った費用が幾らかかったか説明する。
「神官の治癒費用。宿代の追加費用。食事代
。合わせて金貨六枚だ。きっちり払って貰うぞお前ら」
「ええ?これ奢りじゃないの!?ケチだなエリクのおっさん!」
「き、きき金貨六枚?そ、そんな大金持ってないわよ私」
黒髪のガキと赤毛のガキが、途端に不平を漏らす。こいつ等が金無しなのは予想通りだ
。
だがな。世の中は、はいそうですかじゃ済まないんだよ。
「なら働いて返済しろ。それまで二人は、俺の言う通りにして貰うぞ」
不本意だが、このガキ達とパーティを組んで仕事をこなしていく。それしか俺が失った金貨六枚を取り戻す方法は無かった。
「俺はもう名乗った。お前らの名は?」
俺の宣告と質問に、ガキ達は渋々といった表情で答える。
「·····俺はイバト。十五歳」
「······私はクレア。同じく十五歳」
クレアと名乗った少女が言い終えると同時に、イバトが大声を上げた。
「俺!勇者を目指しているから!!」
俺は麦酒を一気飲みしていので、イバトの意味不明の宣言をまるで聞いていなかった。
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