第三話 見つからない不良たち

 あの三人組はいつまで経っても見つからなかった。

「あのクソトリオめ! こんだけ苦労してんだもし見つかったらただじゃおかねえぞ!」

 陽一は怒っている。陶児先輩のためになるとはいえ、不良探しをしなければいけないからだ。

[ミルエル]が戻ってくる。

「どうだった? 写真の男子たちはいたか?」

「岩手山の方にはいなかった。山には登ってないんじゃない?」

 そっち方面じゃなければ今度は反対側だ。

「じゃあ、今度はあっち、宮古市の方を探してこい。海の方だ」

「はあ? そんな遠くに?」

「ああそうだ。案外海で転覆したとかあるかもだぞ?」

「何日かかると思ってるの?」

[ミルエル]は岩手山の方を四日かけて探した。山でそれだけかかったのだ、海となるともっとかかるだろう。

「確かに考えものだな…。[ヤマチオロ]に手伝ってもらえば」

「あんな蛇いたって足手まといよ。あいつには足も手もないけど」

 うーむ。悩む。

「どうしますか陶児先輩?」

「…ここまで探してもいないとなるともう完全に警察に任せた方がいいのかもな。俺たち高校生ではもう限界だ」

 陶児先輩は式神を一体しか持っていない。それにその[ノスヲサ]は[ミルエル]みたいに自由に飛び回ったりできるわけではない。自分自身の足で探すのももう無理なのだろう。

「だから不良なんて放っておいた方がいいんっすよ。関わるといいことなんて起きやしないんすから」

「そうだな。今回は仕方ない。これ以上探すのはやめよう。生徒会役員として非常に残念だ」

 落ち込む先輩は珍しい。

「先輩、今週末に釣り、行かないっすか? 気分転換にいいっすよ釣りは。イワンと一緒に芝水園に行くんすよ」

「釣りか…。悪いがパスだな。土日は模試があるんでな」

「そうっすか…。受験生になると大変っすね…」

 今遊べるうちに遊んでおいた方がいいのかな? 先輩から模試だの試験だの受験だのと聞いているとそんな気分になる。

「俺もやっぱり家で勉強した方が…」

 いいっすかね、と言う前に先輩が言った。

「気分転換はしなければいけない。そうしないと勉強づめでパンクするぞ。俺はそうなった奴を見たことがある。あれは悲惨だ。勉強しても点数が取れず、授業にもついていけなくなっていくんだ。そしてやる気がなくなって引きこもってしまう」

「それ、本当っすか?」

「最悪の場合はそうなる。それで不登校の奴が俺のクラスにもいるぞ」

「…そうはなりたくないっすね…」

「だろう? だから気分転換してこい」

「…先輩は何で気分転換するんすか?」

 先輩は黙り込んだ。そして数秒後に、

「[ノスヲサ]と剣道をする。自分の腕っぷしを鍛えるんだ」

 と答えた。

「それ、気分転換になってるんすか?」

 絶対気が休まれないぞ…。休憩すら修行なのかよ…。

「とにかく三人を探すのは今日で打ち切る。協力してくれてありがとな」

「でも結局見つからなかったっすけどね…」

 そう言って先輩と別れた。自分の家に帰る。

「陽一。北上川を登ってみたんだけどよ、やっぱり何も見つからなかったぜ」

 後ろを振り向くと[ヤマチオロ]がいた。人手が足りなかったので[ヤマチオロ]にも探させていた。

「今度は下るか。海の方に行ってみるか?」

[ヤマチオロ]が提案したが陽一はそれを却下する。

「いや、いい。もう探すのはやめだ。これ以上は俺たちには無理なんだ。先輩がそう言った。それに従う。お前も[ミルエル]も、前のように自由時間にしていいぞ」

 心配そうな目つきで[ヤマチオロ]と[ミルエル]は陽一を見た。

「それは本気なの? 本当に探すのやめるの?」

[ミルエル]がしつこく聞いてくる。

「だって何も出ないんだ。手がかり一つありはしない。こんな状況で高校生が人探しってのがそもそも無理なんだよ。俺だって最初こそ乗り気じゃなかったけど、探すと決めたら本気で探し出してやるって確かに思った。ここで終わるのは先輩の指示とはいえ不本意だ。でも…」

 陽一のことを[ヤマチオロ]が止めた。

「もういいぜ陽一。お前が決めたなら俺たちはそれに従う。お前の式神だからな。落ち込むなよ。そのうち出てくるかもしれないぞ?」

「そうだな。ここで気を落としたら何も始まらないな」

「土曜は釣りに行くんでしょ? イワンに勝てなかったら情けないわよ?」

「[ミルエル]…。釣りは勝負じゃないんだ。神聖なる行為だぞ!」

[ミルエル]は陽一が釣りをしているところを見たことがない。だから競争と勘違いしてもおかしくはない。

「土曜が晴れることを祈ろう。天気予報じゃ降水確率五十パーセント。降るか降らないか五分と五分だな…」

 しかし天気予報も当てにならない。雪子の運動会の日の前日、テレビの予報士は確実に晴れると言っていた。それなのに雨だったからな。

「あとそれと。[アズメノメ]はどうしてるの? 外で全然見かけないんだけど?」

「あれそれは言ってなかったっけか? [アズメノメ]は何だか猫っぽい動きをするんだ。この前召喚したら一日中家の中にいた。だから[クガツチ]と同じく普段召喚しないで札にしてしまってあるんだ」

「ああそうなの。どうりで」

「それに外に放ったが最後、戻ってこないかもしれない。まあ俺の式神になったからそれは無いとは思うんだが一応な」

 家に着いた。今日の夕食は何だろうか?

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