第六話 不良の悲劇

 本当に帰っちゃったのか陽一クンは? 二組を探してもいない。

「せっかく急いで問題集を終わらせたノニ…。せっかちでスネ…」

 しょうがない一人で帰ろう。そう思って教室を出る。その時教室の隅にいる生徒たちの声がした。

「なあこの後カラオケ行かね?」

「おおいいね」

「でも俺ら三人じゃ寂しいぜ?」

「そしたらよ、ナンパでもすりゃあいいじゃんか。結構かわいい子がいるかもしれないぜ?」

 もうそろそろ中間考査だというのにそんなことを言っている。この人たちはちゃんと勉強する気あるのだろうか? 自分だったら百パーセント姉に叱られる…。

「ちゃんと勉強した方がいいと思いまスヨ?」

 一応は言ってみる。

「はあ? 何だお前? こっちに入ってくんなよ!」

「そうだそうだ。うるせえよ」

 思った通りの返事。こういう人と同じ学校に通っていることを考えると正直自分が情けない。

「俺たちはお前みたいにいい子ちゃんぶったりしねえんだよ」

「国に帰れよバーカ!」

 もう救いようがない。自分が神様だったらこの人たちは間違いなく救いません。確実に見捨てます!

 イワンは返事を無視して廊下を歩いて行った。腕時計を見ると時間は五時十分過ぎ。六時ごろには家に着くだろう。

陽一にあの人たちに注意するよう言っておいた方がいいかもしれない。スマートフォンを取り出して陽一にメールを送る。

「キミのクラスには不真面目な人がいマス。彼らにはちゃんと勉強するよう言った方がいいのデハ?」

 そして電車とバスを乗り継いで家に到着する。そのタイミングでスマートフォンを確認すると返事が来ている。

「馬鹿は放っておくのに越したことは無い。そんなことよりも、繭子が目が見えるようになったんだ! 驚いたことに繭子には召喚士の才能があったんだ!」

 あの繭子さんが! イワンはとても驚いた。すぐに返事を打つ。

「それは本当でスカ! 今度繭子さんの式神を見てみたいデス!」


「お前今金ある?」

「俺はちゃんとあるけど、石島は? いつも金欠だろう?」

「今日は用意した。昨日小遣いをもらったんだ」

 宮本、石島、高田の三人は駅前の町中を歩いていた。

「しっかし、全然いいのがいねえや。どいつもこいつもブスばっか」

 すれ違う女性という女性を三人は品定めをした。だがなかなか好みに合う人は見つからない。

「あっちのストレートの人は?」

 石島に言われて宮本が確認に行く。そしてすぐ戻ってくる。

「駄目。スゲーブス」

 また三人で歩き始めた。

「クラスの女子でも誘えばよかったね」

 高田が言う。

「テスト前にくっきーがカラオケに行くなんてこと許してくんないぜきっと。くっきーも律子も顔は良いけど無駄に真面目なんだよな。他の女子は論外だな」

「はあ。他の学校の前にでも行ってかわいい子来るまで張ってみる?」

「一番近い学校どこよ?」

「川の向こうに岩大があったはず」

「大学生かよ。年上すぎるぞ」

「でもその辺のブスよりマシだ。それに年上だから奢ってもらえっかもよ?」

「まーた石島は金のことばっかし」

 進路を変えて進む。北上川を北上していくと橋がある。その橋を渡る。橋の道幅は狭い。三人は横になって歩いていた。これで道幅は塞がったも同然。

「ちょっと邪魔なんだけど」

 通りかかった女性が言った。

「なんか文句あんのか? おおん?」

 宮本が少しキレ気味に言う。しかし相手は引き下がらない。

「道の幅は狭いのに三人で横になって歩けば邪魔だとアリでもわかる。もう一回言おうか? 邪魔」

 それに対し宮本はキレた。

「おい貴様! 誰に向かってそんな口を!」

「あんたが誰かなんて知らないし興味もない。邪魔」

 石島と高田が宮本を抑える。

「ねえここで喧嘩しても何も始まらないよ…」

 しかし宮本はそれを聞くような奴ではなかった。

「うっせーぞお前ら! この女に道なんか誰が譲るか!」

 高田は今度は女性の方にお願いをした。

「すみません。気にしないで。俺が道を譲りますから…」

 すると女性は、

「気にする。邪魔」

 と一点張り。

「何だやる気か! 俺は女だからって容赦しねえぞ!」

 宮本は喧嘩を売った。

「じゃああっちの小道で」

 女性も喧嘩を買った。

 四人で橋を渡った先の小道に移動する。人気のない小道。ここで喧嘩をしても誰にも邪魔されない。宮本と女性は睨み合う。

「あの人大丈夫かな?」

 高田が心配する。

「宮本に絡まれたらお終いだよ。運が悪かったとしか言えないね」

 石島はそう返す。宮本は札付きのワルだ。中学の時から頻繁に問題事を起こしている。相手に謝ったことはないし自分が悪いとも思っていない。でもそんな宮本でも決して弱者には拳を上げない、自分たちをいじめから救ってくれた奴。だからいつも一緒にいる仲間だ。

「お前、名前は何て言うんだ? 俺は今まで相手にしてきた奴は全員名前を聞いて覚えている。お前もそのリストの中に放り込んでやるよ」

「…」

 女性は何も言わない。周りを気にしてはいるようだが。

「怯えて言葉も出ないか。さっきまでの威勢はどっちに飛んでっちまったんだ? なあ?」

 宮本は拳をポキポキと鳴らす。これは自分の強さのアピールであり、彼が本気を出す、自分や石島に相手を逃がすなという合図でもある。

「一つ訂正しましょ」

 女性はそう答えた。

「は? 何言ってんだ? 俺は名前を聞いたんだよ、な、ま、え! それとも名無しさんか?」

「私が何も言わなかったのは怖いからじゃない。言っても無駄になるからよ、宮本くん。そこを訂正してちょうだい」

「ああ? お前は自分の立場がわかってねえみてえだな? そんなこと言ってる場合じゃないんだぜ?」

 宮本は笑った。でも女性は真剣だ。

「まあ落ち着けよ。よく見るとお前もなかなか美人だが、だからといって手加減はしないぜ。そのかわりお前も全力できていいんだぜ?」

 そう宮本が挑発すると女性はニコっと笑い、

「じゃあ遠慮なく」

 と言った。

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