第九話 名前を決めた
陽一の言葉に猫は反応して頷く。
「これは驚いた…十五年生きてきて召喚士のいない式神なんて初めてだ…。イワンがロシアで召喚士をやっていたことにも最初は驚いたがこんなことが本当にあるのか…」
しかし存在しているのだからそうなんだろう。とにかくこれを今どうするか考えなければ…。
野放しにするか? でもそうすると他の式神に危害を加えるだろう。自分の知っている召喚士はイワンと陶児先輩だけだが、二人なら即刻殺処分を選ぶかもしれない。この式神にだって存在する権利はある。
「悩んでても仕方ねえ。これ、一まず持って帰るか…」
陽一は猫を抱えて家に帰って来た。
「どこ行ってたの陽一。もう晩ご飯だよ」
母がそう言う。
「ちょっと待ってくれ母さん。すぐ終わるから」
そう返して自分の部屋にこもる。
机の引き出しから和紙と筆ペンを取り出す。式神を作る時、まずはこうして和紙に魂を宿して名前を書くのだが…。
「初めから式神になっている奴にこれは有効なのか? いつも通りの手順で大丈夫なのか…」
そもそもこの猫の名前は何だ? この猫は言葉を話せないようだが…。だからと言って名前をニャーにするのは…。
「何かいいアイデアは無いか[ヤマチオロ]? [ミルエル]?」
「俺はコイツをボコボコにしたいぜ。いきなりボールに変えられたんだからよ」
「私も[ヤマチオロ]に賛成ー。喋れないんなら話し合いの余地もないじゃん」
「お前たちは薄情者だな…」
まあされた仕打ちを考えればそう言うのも無理はないが。
「使い方によっては利用できるかもしれないぞこの式神。ボールに変える力を式神以外にも発揮できれば、その辺の大きなゴミとかをボールに変えて捨てることもできる」
「それはできるのなら、の話だろ? 俺は無理だと思うぜ。だって俺たち式神は召喚士以外には見えないんだから。きっとその力も式神にしか使えない。陽一、お前が確かめたことだろう?」
[ヤマチオロ]がそう言う。
「それはそうだとしても、名前はいるだろ? 名無しの式神ってのは困る」
猫を机の上に置くと、その場で踊り始めた。
「何か意味でもあるのかコレ? 喜びを示してるとか? 人に拾われるのを本当は待ちわびていたとか?」
考えれば考えるだけ訳がわからなくなる。股間に金玉はないから雌のようだが…。
「考えてもらちが明かねえ! 決めた。お前の名前は[アズメノメ]だ!」
[アズメノメ]。日本神話に登場する芸能の女神の名前をもじったものだ。和紙にそう書いて札を作りそれを猫にかざしてみる。
猫は消えた。普通の式神の作り方が既に存在している式神にも通用した。
「うまくいったみたいだな。[アズメノメ]。今日から俺の式神だ。よろしく頼むぞ!」
母が下の階で自分のことを呼んでいる。今日の晩ご飯は何だろうか? 昨日は野菜炒めだったから肉を食いたい。
「今行く」
そう答えると陽一は札を四枚ポケットにしまって部屋を出た。
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