式神召喚士

杜都醍醐

第一章 式神と召喚士

第一話 その名は辻本陽一

 入学式も終わって三週間が経った。クラスのみんなは高校生活に慣れてきたようだ。昼休みになると違う中学出身の人たちと話しながら弁当を食べている。

 でもその中で一人だけ、誰ともしゃべらず自分の席で弁当を食べている人がいる。

 食べ終えると彼は席を外し教室から出ていった。

「待って!」

 彼を呼び止める。

「…何か用かい? 八幡さん」

 彼は振り返ってそう言った。

「あなたは今日も一人でお昼食べてたわね。クラスに馴染めないの?」

 このクラスの学級委員になってそれが気がかりだ。

「別にそういうわけじゃない。うちのクラスは平和だよ。でも話が合うような奴は二組にいないだけだ」

「話が合うって、どういう風に? 趣味とか?」

 彼はうつむいてそして答えた。

「君と話してても無駄だ。時間がもったいない」

「でもそんなこと言ったらいつまでたっても一人よ? 私に何かできることはないの?」

「ない、かな」

 そう言うと廊下を歩いて行った。

「やめときなよ、くっきー」

 後ろから肩を叩かれて言われた。自分の名前が久姫だからもじってくっきーというあだ名をつけられている。

「律子。どうして止めるのよ?」

「私はあいつと同じ中学だったからわかるんだけど。辻本陽一つじもとよういち。顔も成績も運動神経も悪くないんだけどどこか関わりづらい奴…。今日もきっと一組のイワンのところに行くのよ。あいつら中学時代から仲良かったから」

「そのイワンって人なら話が合うの?」

「話が合うっていうか…あいつがイワン以外の人と話してるところを見たことがないわ」

「何か理由でもあるのかな?」

「さあ。私は何も知らない。でも確か三年前にあいつの友人が事故死してたはず。そのショックから未だに立ち直れてないのかもね。そっとしてあげたら? 本人もそうして欲しいみたいだし」

「放ってなんて置けないわ! 私はこのクラスの委員長だもの。そんなことできない!」

 私は正義感が強い方だ。だから彼が一人ぼっちでいるのを見ていると辛い。

「でもあまり関わんない方がいいかもよ」

「何でよ?」

「私はこの目で実際に見たことはないんだけど。彼、時より紙に向かって話しかけてることがあるそうよ? 何か不気味じゃない?」

「紙…?」

「よくわかんないけど。関わんない方が身のためかもよ? 私は三年間そうしてきたし。それで困らなかったから」

 律子はそう言って去って行った。

 イワンとか言ったっけ。確か新入生にロシア人がいるという話は聞いたことがある。

 放課後に久姫は一組の教室に向かった。イワンがどの人かはすぐにわかった。一人だけ金髪だからだ。

「あなたがイワンね?」

 そう聞くと返事をくれた。

「ハイ。ワタシがイワン・チェルヌイフでス。二年前に日本に来まシタ。そういうアナタは誰でスカ?」

 少し変な日本語をしゃべる。きっとまだ日本での生活に完全には慣れていないのだろう。

「私は二組の八幡やはた久姫くき。あなたは今日、陽一君と昼休みに会った?」

「それは会いましタヨ。彼とは家も近いので近所付き合いも多いデス。中学校も同じでしタシ。彼とは気が合いマス」

 この人なら陽一君とどうすれば仲良くなれるか知っているはずだ。

「陽一君はクラスに全く馴染もうとしないの。とどうすれば仲良くやっていけるかな?」

 イワンの表情が少し曇る。

「それは心配いりまセン。陽一クンからすればワタシがいれば十分でスシ。それに変に絡まれても困りまスヨ」

 それを言われてしまうともうお終いである。

「久姫サン。そう気を落とさないで下サイ。陽一クンはそういう人なんデス。確かに話が分かる人でないと仲良くする気がないのは変かもしれませンガ、ワタシは理解できるノデ。陽一クンが完全に孤立するようなことはありまセン。余計な心配はいらんデス」

「…」

 陽一君の友達がそう言うのならそうなのだろう。これ以上はよそう。でも決して諦めない。

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