第二話 科学館

 秋休み明けに実力テストがあるものの、宿題自体は簡単だ。一日で終わった。

「暇だなあ。何かねえの姉貴?」

「八木山動物園にでも行って来たら?」

「でも目玉だったナイルワニ、夏に死んだんだろ? 行っても面白くない」

「じゃあいつものところに行けば?」

 いつものところとは、近所の仙台市科学館である。子供の頃から行っている。行かなかった月がないくらい足を運ぶ。

「じゃあ行ってくる」

 準は家を出た。歩いてすぐ、仙台市科学館に着いた。

「おや? 長谷川はせがわ興児きょうじじゃないか? 何で受付やってんの? まさか格下げでもされたの? クビ寸前? あ、そろそろ結婚でもしたら? 貯金が趣味とか女受けしないだろうに」

 受付にいる男は知り合いだ。長谷川興児。四年前にこの博物館にやって来た学芸員だ。

「うるさいぞ準。人手が足りないから今日はここの係りになってるだけだ! それより、年間パスあるなら見せろ」

「あっやべ。忘れてきちまった…」

「じゃあ入館料四百円だ」

「顔パス、でどう?」

 準は自分の顔を指さした。

「聞こえねえな、何も。すかしっぺでもしたか?」

 顔パスは通らなかった。仕方なく入館料を払う。

 博物館に入場する。真っ先に恐竜のコーナーに向かった。

「いつ見てもすげえや…」

 ティラノサウルスの骨格標本だ。レプリカとわかっていても迫力がある。他の恐竜の骨格標本も、何度も見てきた。そして見るたびに感動してきた。

 次にメソサウルスの化石。これは本物だ。横にはウェゲナーと大陸移動説の話が書かれている。

「俺もウェゲナーみたいに、化石について考えて大発見してみたいもんだぜ」

 いつもこう言う。

 一通り見終わると次に必ずアンケートコーナーに行く。十枚のアンケート用紙を取って一枚だけ自分の情報を正確に書いた。残りの九枚はデタラメの情報を書く。そしてご要望の欄に、

「パラサウロロフスの骨格標本を展示して下さい」

 同じようなことを恐竜の名前だけ変えてアンケート用紙に記入する。これで希望が通れば、と思うのだが、

「おい準。まーたやってんのかそれ。全部字同じなんだからバレてんだぞ? お前、この博物館で俺が来る前からそれで有名だぞ? だいたいこんな希望、上が通すはずないだろう」

 後ろを通りかかった興児が準に言った。

「そこなんとかならねえのかよー」

「ならないんだよ。そう簡単にいくものか。お前一人の意見に一々対処してたらこっちは潰れちまう」

 くっそー。今回も意見は採用されなさそうだな…。

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