第10話 入れ替わった立場



数日経っても、「元親友」からの返事はなかった。そう簡単なものだとは思っていないが、やはり返事を待つ時間は、耐え難いものがあった。

でも、屋上に行けば、先輩がいて、他愛もない話をする・・・それだけで心が救われるものがあった。


数日過ぎて、「元親友」からではなく、初恋の彼女から、呼び出しがあった。前回と同じく放課後、校舎裏で。

会いに行き、話をしてみたところ、どうも、「元親友」に僕と彼女がキスしたことを話したことで、「元親友」は怒り心頭、彼女にも別れを告げ、僕とは仲直りできないそんな状況だということを教えられた。


「ごめん。僕はいくら嫌われようとそれは仕方ないけれど、君が嫌われてはと思って、キスのことは彼に話していなかった。隠されたと怒っているんだろうね。キミに話していないことを伝えておけばよかった。」


「ううん。それは別に気にしてないよ。彼から別れを告げられたときは、そりゃ辛かったけれど・・・

でも、別れを告げられて・・・しばらくして私思ったの。彼はわたしの言うことを聞いてくれなかった。耳を貸してくれなかった。何も聞かず、別れを切り出されちゃった。そっちのほうが悲しかった。そんな一方的な関係、続くわけないし・・・「元親友」くんのこと、まだ知らないことがあったんだって。

だから、これで良かったのかもしれないって思えてしまっちゃった。

もし怒りに任せてだったとしても、私のことはそんなものだったのねとしか思えなくなっちゃったから。悲しいことだけどね。とりあえず、仲直りはもう無理だと思うわ。私も切り捨てられたわけだし。」


「わかった。何を言っても無駄かもしれない。それでも君には謝るしか僕には出来ない。本当にごめん。」


「うん。わかってるよ。もう気にしないで。本当は、私と付き合ってなんて言いたいところだけど、もう、入り込めないのはわかっているし。ただ、これからは友達として付き合ってもらっていいかな?」


「こんな僕で良かったら。」


「ありがとう。「僕」くん。」


本来なら、彼女は僕に罵詈雑言を与えてもいいはずなのに。僕がキスをしなければ、別れることもなかったはずなのに。それなのに、優しく、友達でいることも許してくれた。彼女にお返しをするにはなにをしたらいいんだろう、僕は、彼女と別れた後、その日1日、その事ばかり考えていた。


翌日、いつものように屋上に行ってみると、「元親友」と先輩が話をしていた。僕のことを吹き込むだけならいいけれど、先輩に、迷惑がかかることがなければいいがと心配になる。ただ、僕が割り込むわけにも行かず、その時は、とりあえず引き返した。


別の時間にまた屋上へ・・・行ってみたが、また「元親友」が先に来て先輩と話しているようだ。これでは屋上へ行こことも出来ないなと今回も引き返そうと思うが、とりあえず先輩の表情を確認し、辛そうな、嫌そうな表情にはなってないようなので、安心して引き返した。


翌日も、その翌日も「元親友」は屋上へと行っているようだ。先輩も避けるつもりもなく、屋上に行っているようで、仲良くなっているかもしれないと思った。ただ、やっぱり僕はいい気持ちにはならない。でも、僕は、「元親友」の彼女に手を出して壊してしまったわけで・・・なにか言える立場ではない。ただ、見守ることだけしか出来なかった。


「元親友」が屋上に行くようになり、最初は僕も屋上を覗きに行っていたが、いつまでも覗きに行ってもどうしようもないと思い、以前、少しだけお世話になった中庭で過ごすようになった。たまに「初恋の彼女」が顔を出したりして、僕のことを心配してくれたりした。彼女だった辛いのに。


でも、先輩からは何もなかった。多分、「元親友」とも仲良くなっているようだし・・・僕のことを切り捨てたのかもしれないなんて考えてしまう。まあ、こればかりは僕にはなにもできない。友好関係に口出しなんてできるわけ無い。でも、やっぱり、好きになった人と離れ、別の人と仲良くしているということを知ってしまうのは、心が痛く苦しいなと感じてしまう。


とりあえず、「元親友」が屋上にいる限りはもう行かないことだけ先輩には伝えなければと思う。関係が終わるとしても。

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