第二話 先生の作戦!

 これではさすがに僕一人じゃ立ち向かえない。僕は昼休みに戦友を集めた。

「答え合わせして回収じゃあ、みんな満点だ。これじゃあ勝手に完璧にされちまう!」

 氷威の言う通りだ。何か、策が必要だ。

「わざと間違えるとかは?」

 鈴茄が言う。それもシンプルだが、有効な一手。というか僕もそれ以外に思いつかない。

「それ、私が明日やってみるね」

 祈裡が自ら実践すると言う。

「それは駄目だ! 危険すぎる!」

 もちろん僕は止める。でも、

「劉葉君ばかりに任せてられないよ。勝利はみんなで掴むものでしょ!」

 祈裡は覚悟を決めている。

「なら僕も、間違える! 君一人だけには任せられない。それに間違える生徒は、多い方がいい!」

「なら俺たちも!」

 氷威と鈴茄も加わることになった。

 誤解答作戦は、明日の五時間目に決行だ!


 劉葉の会話を聞いていた人がいた。

「なるほど。そんなことするんだ?」

 正忠だ。

「どんなこと?」

 織姫が正忠の独り言を聞き逃さなかった。

「何でもない。君には関係ないよ」


 今日は雨が降っている。だから校庭で遊ぶことはできない。みんな教室にいる。それも詰まらなさそうに。それもそのはず、たとえ雨の日でもここでは、将棋とかトランプとか、そう言ったゲームの類は一切許されない!

「はいみんな、座って!」

 まだ昼休みは五分あるのに、先生がやって来た。抵抗しても無駄なので、席に座る。が、織姫がまだいない。

「あ~あ。織姫ちゃん、遅刻ね」

 これには僕は黙っていられなかった。手を挙げた。そして指名されてないけど、言った。

「本来ならまだ、昼休みなんです! 織姫ちゃんは図書室に行きました。帰ってくるのは一時十五分の直前です。先生が早すぎるんです。それなのに遅刻は、いくらなんでも酷すぎます!」

 先生はやはり鞭を打つ。

「劉葉ちゃん? 先生が来たら授業は既に始まっているのよ? それぐらい常識。わかってないあなたたちの方が間違ってるの」

「それは理不尽すぎ…」

 先生が鞭を二回も打った。

「何が理不尽? いい? 先生の言うことは絶対。それがわからない君たちが間違ってるの? わかったら手を下げなさい!」

 火野先生とは違って、この先生の絶対性はまだ崩せてない。太刀打ちができない…。

 僕が言った通りの時間に、織姫は戻って来た。

「織姫ちゃん。もう授業は始めっているのよ? それなのに遅刻って、先生を舐・め・て・る・の?」

「ち、ち、違います! だって昼休みだったから…」

 織姫は生徒手帳を取り出し、昼休みの時間を確認しようとしたが、

「黙りなさい!」

 今度は怒鳴った。反論が一切できなかった織姫は渋々席に着いた。

「さあ、教科書六十ページを開いて。今日は新しいところをやるわよ!」


 授業は一応集中して聞いた。わざと間違えると言っても、授業内容は頭に入れておかなければ僕自身のためにはならない。

 そしてついに、作戦実行の時が来た。先生がプリントを配り始めた。

「十五分」

 今度は答え合わせに十分残す予定だ。僕は答えはわかっているけど、間違った解答をプリントに書いた。

「はい時間。答え書くから写してね」

 先生が答えを書いていく。僕の解答は、一つも合っていない。作戦成功! 後で職員室で慌てふためく姿が目に浮かぶ。

 黒板に答えを全部書き終えた。と同時に、

「劉葉ちゃん、氷威ちゃん、祈裡ちゃん、鈴茄ちゃん。プリント持っていらっしゃい」

 いきなり僕たちは呼び出された。何もしてないのに…?

「プリント見せなさい」

 僕はプリントを見せた。すると先生が鞭を打った!

「アレレレレレ? おかしいわね。黒板の解答と随分違うみたいだけど。何でちゃんと写さないの?」

「これが僕の解答です! 僕は今日の授業内容が良くわからなかったんです! それなのに先生の書いた答えを丸写しさせられては、自分のためになりません!」

 僕は勇気を出して反論した。でも先生の答えは…バシンと鞭を打つ。

「そういう生徒は困るわね。今ここで書き直しなさい!」

「でもそれでは劉葉の言うように…」

 氷威も立ち向かう。だが、鞭の前では誰でも怯む。

「なあに? 文句があるなら、全問正解してからにしてくれない?」

 上手く言い包められてしまった…。

 結局僕たちはその場でプリントの答えを書き直した。

 僕としたことが、二連敗だ。でもどうして、作戦がバレたんだろう?

 先生が僕らから一瞬目を離した。他の三人は書き直しに必死だが、僕だけはそれを見逃さなかった。

 先生は、正忠に向けてウインクした。

 正忠。彼が先生に、事前に密告したのだ…。


 放課後。四人で集まる。

「正忠の奴がそんなことを?」

「ひどーい!」

 氷威と祈裡が言う。でも僕は仕方がなかったと割り切った。裏切り者、スパイは戦争において普通に有り得る。正忠の行動に目を配ってなかった僕のミスだ。

「今日は帰る。これ以上の機密漏えいは避けなければいけない! みんなを信頼してないわけじゃないけど、どこで情報が漏れるかわからない! みんなも対策を、各々で考えてくれ!」

 僕は家に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る