第五話 親玉は校長先生!
教室では、担任の
担任とも、戦わなければいけない。戦う相手は選べないのが戦争だ。
放課後。僕は職員室に呼び出された。
「何ですか?」
まず受け答えをしたのは火野先生だ。
「劉葉くん。君に用があってね…」
もうこの先生は怖くはない。恐れるほどの敵じゃあない。
「僕も先生に用がありますよ」
「何だと?」
先生は驚いている。
「まずですね…。氷威と祈裡に謝って下さい。わからない問題を教科書で調べるのは、生徒として当然のことです。それとも何ですか、生徒には教科書を読む資格がないんですか!」
強く出た。先生が負けを認めた、今日の内に不平等条約を結んでおかなければいけない!
「………」
火野先生は無言だ。生徒が正論だから? いや違う。敗北したからには、勝者の意見は無視できないと知っているからだ。
「謝ることはないですよ、火野先生」
僕と先生は声の方を向いた。
「お、校長…先生」
校長が来た…。この戦争の、敵国の親玉。校長は琉球首里大教育学部の教授を兼任している。
校長さえ倒すことができたのなら、僕の任務は完了だ。
でもそれは、校長からしてみれば、僕さえやっつければ敵がいなくなるという意味だ。
「劉葉…君。君の授業態度は見過ごせませんね。どうしても先生に逆らい授業を妨害しなければいけないのですか?」
校長の言葉にはズッシリとした重みを感じざるを得ない。
「それが僕の使命だ!」
だけど僕も反論した。まだ始まったばかりの戦争。いきなりここで負けるわけにはいかない。
両者睨み合う。数分、職員室の空気と時間が止まっているように感じた。
「まあ、今日のところは見逃してあげましょう。君の昨日の行動で、私も勘づくべきでしたね」
校長の方が折れた。でも表情は完全に負けを認めていない。
僕は怒られずに済んだ。
「劉葉君、本当に大丈夫なのソレ?」
織姫が聞く。
「大丈夫では、ないね。今日一番活躍してくれた二等兵は、もう殉死した。彼女の墓を作って死を弔ってやりたいけど、遺体がどこにあるかわからない」
「そういう意味じゃなくて!」
もちろん僕だって、織姫の質問の本当の意味は分かっている。
「僕は、この学校の授業体制に反対だ。織姫ちゃんは違うのかい? このディストピアが続いて、さらに全国に広まってしまっていいとでも?」
「確かにわたしも良くはないと思う。でも先生に歯向かうのはちょっと…」
真面目な織姫からすれば、僕のやっていることはたちの悪い不良に等しい。でも、引き下がるつもりはない。
「僕は負けない! 琉球首里大学の唱える授業は、導入された今年で終わらせる!」
二〇〇四年。今年は授業戦争の開戦と終戦の年になるだろう。
「でも…。それで劉葉君が傷つくのは見てられないよわたし…」
「そんな心配はいらない! 僕一人の犠牲で勝利できるのなら、僕はこの命、いくらでも捧げよう! 僕が勝利の礎となれるなら、そんなに喜ばしいことはない! 織姫ちゃんも、僕の名誉ある戦死を褒め称えてくれ!」
僕一人の犠牲で済むなら、随分と安いものだそれは。
「だ、だ、だから、できないってそれは~!」
二人で下校する。織姫の帰り道の途中に僕の家がある。そして僕も織姫も、部活には入っていない。完璧な動きができて、絶対に勝つことができる部員しかレギュラーにはなれない。この教育体制は、部活動にまで根付いているのだ…。
家に帰る。風呂に入って今日の戦いの疲れを癒す。
風呂から上がると、お父さんが帰って来ていた。
「劉葉、座りなさい」
言われた通りに座った。
「今日、学校で先生に歯向かったようだな? 先生たちから聞いたのだが…一体何度言えばわかる? 学校は劉葉に、賢くたくましく、立派な人間になってもらいたいんだよ?」
「お父さん、それはわかってる。けど僕には、やらなきゃいけないことがある! それは僕にしか…」
「できないこと、なんだろう? でも、劉葉だけが頑張ることは無いんだよ。みんな同じ。生徒も先生も頑張っているんだ」
お父さんは、学校の味方だ。だから僕はお父さんのことを、頼りにはしていない。
「先生の頑張りと、僕の頑張りは違う。学校が先生が何て言おうと、僕は完璧絶対授業に立ち向かって見せる! それが間違っていることを証明してみせる!」
「なら明日も学校に、ちゃんと行くかい?」
「もちろん! 不登校は敗北を認めたことになる僕は負けない!」
そう言って、僕は部屋に戻った。
「劉葉…来てくれるなら、それでいい」
お父さんは劉葉があえていなくなってから、そう言った。
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