僕と先生の授業戦争

杜都醍醐

一時間目 国語

第一話 開戦!

 時刻は八時五十九分。あと一分で授業開始のチャイムがキーンコーンカーンコーンと…鳴らない! 何故ならここ、琉球首里大付属中学では、時間管理の出来ることが前提に学校生活を送らなければいけないからである。しかし僕ら生徒にとっては、いい迷惑である!

 一時間目は国語。先生は火野。そろそろ定年を迎えるくらいのお爺ちゃん。僕はこの先生に、定年よりも寿命が先に来るのではないかと思っている。

「これが、はてして通じるのか…。いくらなんでも古すぎる…」

 僕――古城こじょう劉葉りゅうばはドアに黒板消しを挟んだ。それをクラスメイトの天ヶ崎あまがさき氷威ひょういが見ていた。

「戦争はもう始まっている! これは奇襲攻撃と見せかけての陽動だ!」

 僕はドアの足元にネズミ捕りを仕掛けた。本命はこっち。黒板消しはただの囮だ。こんな廊下から確認できる罠に先生がはまるとは思ってないさ。視線を注目させることが目的だからね。

「戦争ねえ。そんなに授業が嫌なら来なけりゃいいのに」

 氷威が言うのはド正論である。だけどそれはできない。

「それは敗北を認めたことになる! 僕たちは負けない!」

 今日は何個も持って来た。どれかには引っかかるだろう。火野ひの先生はサンダルだからな、踏んだ瞬間、痛てててて! と叫ぶ姿が目に浮かぶ。

「いつになったら終戦するの?」

 和島祈裡が聞いてきた。その質問の答えは決まっている。

「先生が降伏したらだ! 停戦は認められない!」

 僕は勝つ。この学校に、必ず。


 僕たちの学校はおかしい。大学の付属だからだけど、生徒を実験台にしている。こういう教育制度にしたら、どういう結果が得られるか、教育学部がデータを取っている。そしてそれを知っているのは僕だけ。

 今実験的に試行されているのは、完璧絶対授業。これ程酷いものはない! 先生たちは生徒に文句を言わせない絶対的な存在として扱われ、そして生徒たちの完璧な学力向上を目指す。

 この学校でのみ、試されているのが不幸中の幸いだ。そして結果が良ければこの沖縄県に、そして日本中に広がってしまう。だから敗北は許されないし、認められない!


 この授業を言わば廃止に持ち込むのが、この戦争での僕の任務だ。


 さあもう九時だ。授業開始のベルこそ鳴らないけど、戦いが始まる!

「ん…?」

 ドアが開かないぞ? どうしてだ?

「劉葉くん、君の考えはお見通しだよ」

 教室の後ろのドアが開いた。火野先生は後ろから教室に入って来た。

「しまった!」

 僕は心の中で叫んだ。口に出せなかったのは、情けなかったからじゃない。先生の絶対性を保つため、この授業体制では、先生の許可しない発言は定期試験の点数から問答無用で一点減点。僕はこれを被弾と呼んでいる!

 そして先生に喧嘩を売ったり、文句を言ったりしたら点数に関係なく、補講への赤紙が飛んでくる。

 それだけではない。定期試験では、完璧な回答が求められる。計算の途中式、漢字のミス、スペルミス、文章題の文字数オーバー。これらを犯せばその問題は、配点は零点になる!

 火野先生は前のドアを見た。

「また劉葉くんだね? 君も困った生徒だ。こんな古風ないたずら、私も昔よくやったよ。当時は良く引っかけることができたけど、それを見てきた私に通じるとでも? それに五個もネズミ取りを用意しちゃって。全くご苦労さん」

 僕は反論しない。先制攻撃は、失敗に終わった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る