歳をとってくことはこんなに歓びだった

あー。まだ、まだぜんぜんだいじょうぶだ。だいじょうぶ、だった。

もう若さを武器や売りにできるほど若くはないけど、

ああ、年齢! と、空を仰がなくていい程度には、

私はいままだ若くって、

人間主体のアテにもならない平均寿命とかいう概念によれば、

きっと、私にはまだ、五十年程度、半世紀もの時間がちゃんときちんと残されているのだ。


そりゃこんなことにもし十年前気づいてりゃもっともーっとすごかったんだな、と思わなくもない。

だが、ちがう。十年だ。

私は十年前であれば十五歳。そして十年後には、三十五歳なのだ。


だったらおんなじようなことだろう。

私はいま、気づいた。そしてそのうえで、のちの十年をすごし、

いまの私にとってはのみこみきれないこと、ざらつくこと、信用ならないこと、

それらの仕組みや価値というものを、年齢とともになにかを学んでいくのだろう。

そして、十五歳の私から二十五歳のいまの私が地続きであるのとおなじ程度の意味で、きっと三十五歳の私はいまの私と地続きで、

かつ、きっといまの私が認識さえしていなかったことを三十五歳の私は体感として感覚として、身につけ、うなずいているのだろう。



ああ、なんと楽しいことだろう! なんと歓びなんだろう!

こうやって、こうやって歳をとっていく、という人間現実のありさまは。

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