今日の食事

優咲

プロローグ

あの日もたしか、雨が降っていたと思う。

初めて君と出会った日。僕は君の泣き声に喚ばれたんだ。


「どうしたの、ないているの?」


ちいさな君は、枕をドット柄にさせていたね。

ぽつり、ぽつりと不揃いな丸が増えてゆく。


「怖い夢を見たの……」


震える声。止まらないしゃっくり。よっぽど怖い夢を見たんだね。

もう、大丈夫だよ。

僕は、にこり、と少女に微笑みかけた。


「それならぼくがたべてあげる。ぜんぶ、ぜんぶ、たべてあげる」


あの時雨が降っていたのか、そうでないのかは、

もう、どうでもいい。

ただ君が、幸せでいてくれれば、僕はそれでいい。

悪い夢なら食べてあげる。

獏である僕ができることはそれくらい。


ほら、悪い夢なら、僕が食べたよ。

だからもう、泣かなくて、いいんだよ……


「ありがとう、…………」


今日の食事を、この味を、僕は忘れることはないだろう。

初めて食べた夢の味は、もう二度と、味わうことはないのだから。

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