庭の人面カラス

古新野 ま~ち

第1話 人面カラス

  ある朝、蕗祥子が不愉快な音に起こされた。外が異様に煩いため、唐草模様のカーテンを開けると隣家の屋根の上で雀がカラスに襲われていた。音の正体はカラスの恐嚇と雀の嘆き喚く抵抗だった。

  祥子は窓も開けた。サッシに身を乗り出して一言二言でも怒鳴れば、カラスは飛び去ってくれるだろうと、肺に朝の空気を溜め込む。すると、カラスは祥子の視線に気がついたらしく首をくるりとまわした。

  カラスは女の顔であった。

  ぱちくりと切れ長の目が瞬いた。そして、祥子を睨み付ける。小ぶりだが高い鼻が膨らんで、紫がかった唇から怪鳥の咆哮が谺した。


  鼓膜に直接、平手打ちをされたような衝撃であった。歯を食い縛ればらなければ目を開けていることすらできない。ガラスは振動するも何とか持ちこたえた。しかし間近にいた雀は電撃をあびたように痙攣して屋根から落下した。

  怒気の形相と唾を飛ばすような激昂に、祥子は腰がすくんだ。ガラスを割りかねないほど力強く閉めて、カーテンも閉ざした。まだカラスの鳴き声が残響している。それとも耳鳴りであろうか。握りしめたカーテンに手のひらの汗が染みていく。

  心臓が掌握されたような血圧の上昇で汗が吹き出した。ようやくカーテンから手を離した。素材は丈夫なカーテンのはずが失禁したあとの下着のようであった。

  カーテンの向こうで窓ガラスを叩いている。それとも、ただ鳴いているだけだろうか。祥子は確認することすらできなかった。

  早く学校に行かねばと、行けば杉原たちがいるからと、立ち上がった。

  両親は何事もなかったかのように朝食をすませていた。

  

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