第2話リリスの宝石

 ランチを終えたOLやサラリーマンが、少し早歩きで仕事に戻る平日の昼下がり。私はクウに佐々木ささきさんがお店に来たと連絡を貰い、お店に戻った。



◇ ◇ ◇ ◇



 ―チリンチリン

佐々木ささき様お待たせしてすみません。時間がかかってしまって」

 私は申し訳なさそうに、佐々木さんの顔色をうかがいながら、お店に入った。そうすると、すらっとした40代後半の男性がコーヒーを飲みながらカウンターに座っていた。

「大丈夫ですよ。クウさんの淹れてくれるコーヒーは絶品ですし、この喫茶店の雰囲気が好きなので、待つ時間なんてあっという間にたちます。それに、クウさんから聞きました。私のためにリリスさんが何かされていると…お忙しいのにありがとうございます」

 笑顔が優しく、年下の私に対しても気を使ってくれるあたりや、失恋した次の日とは思えない落ち着きになんというか、イケメンおじさんというのはこうゆうことなんだろうかと思った。

「リリス様は佐々木さんのためではなく、お仕事のため仕方がなく外出されていたのです」

 クウは無表情で答えた。私が気まずい…。佐々木さんを待たせて気を使わせてしまったことにも、クウが失礼な態度をとったことに対してもダブルパンチで気まずい。

「クウ、だめ…」

 私が困っているのがわかったのか。すぐに察したクウが

「申し訳ございません。リリス様を困らせるつもりはなかったのです。佐々木さん、宝石はお持ちいただけましたか」

 と話しは進めていった。

「はい、昨日いただいた透明の宝石を指示通り枕元に置いて寝ると、朝目が覚めたら赤色の宝石に変わっていまして…。」

 佐々木さんの右手には深紅色の宝石があり、私に渡してきた。

「はい。確かに受け取りました。あーなるほど、やっぱりこの宝石で間違いないですね。ありがとうごさいます。素敵な宝石ですね。それでは、こちらの宝石を受け取りください」

 私は、少し深紅色の宝石を眺めた後、カバンから水色に少し白色は混じっている宝石を出し、佐々木さんに渡した。

「この宝石の名前は『からはる』といいます。宝石の中を光で透かすと水色の中に雲があるように見えます。きっと、佐々木様にとって良い運命を引き寄せてくれることとおもいます。どうか肌身離さずお持ちください」


「綺麗な宝石だ。ありがとう」

と佐々木さんは言い、一口コーヒーを飲み、店をでた。

―チリンチリン



◇ ◇ ◇ ◇

「佐々木さんにあげた宝石は何だったのですか」

 とクウが珍しく聞いてきた。


「あーあれは部活の先輩に恋した青春真っ盛りの女子高校生の失恋を宝石にしたやつ。美しい景色や誰かと笑いながら過ごすことで失恋の悲しみをうまく中和させることができるの。そして、素直な気持ちや心の持ち方が育つ。佐々木ささき様の今回の失恋の理由は、あので誰に対しても優しく褒めることが原因だったから、好きな人の前では素でいられるようになったらいいなーと思って渡したの。佐々木様の素が暴力男とか、お金に物いわすような人だと嫌だったから、一応深紅の宝石の中を見たけれど、本当に素も情熱的でやさしいってわかったから」


「さすがです。リリス様。しかし、素になったからといってよい方向に転ぶとは思えません」

 今日はやけに突っかかるな。

「そうね、保証はない。だけれど、私は夢飼いだよ。未来が見えるわけではないけれど、悪夢を良い夢に変えることでその人にとって良い人生が進むと信じてる」


「もう1ついいですか…リリス様はと呼ばれる人がお好きなのですか。恋愛感情で好きなのですか。もう俺のことなんて見てはくれないのでしょうか」


ええええええええ。さっきからやけに突っかかるなと思ったら、何!?嫉妬?

「いや、お客様だし、好きとかそういうのではないよ」


「あぁそうですか!よかった。危うく佐々木ささきさんの宝石を盗んで壊して無茶苦茶してしまおうかと」


「いや……それ、普通に怖いからやめて…」

想像できてしまうあたりゾッとしていまう。

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夢飼いリリス 若葉 萌 @kazarimono

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