現生人類終末とインキュバシズム

@zhin

第1話 インキュバシズム、開始 その1

現生人類終末とインキュバシズム



木々が茂られ木漏れ日を反射する葉っぱだけが光源である森の中。

そこに男が一人、森の中を歩いていた。

彼の名はシド。

外見は20代初めに見える程度。

地面に引きずられそうに見える黒いロングコート身体につき、背中には身長より長い鉄の弓を肩にかけていた。髪色も服装に合わせて真っ黒、前頭部には悪魔の角が左右対称に二つ付いていた。外見だけ見れば悪党の見本そのものであった。

シドは何時間も歩き続けていたのか、疲れ気味であっても足取りはやまない。

やがて自然が作り上げたトンネルは終わりを迎える。


「ふうー。こんなうっとうしいところに住んでいたかと思いきや贅沢な田園生活しているなこいつ」


ぶつぶついいながらも周りを目でさっとスキャン。そして見当たるところに日陰がよい小屋が一軒たってあった。森の中に隠されていた建物のわりには結構いいものだ、と心の奥底で評価をつけた。

小屋だと言うが二階もあるとこかの住宅地にもありそうな立派なものだ。ここで自給自足しているのか小屋の横には小さな畑もあり、池とは呼びがたい小さなものもある。意外だな、と言いだしそうな顔であっちこっちキョロキョロとしていたら目に入るものがあった。

それは、小屋の玄関のドア。ロダンの地獄門を模型にしたらこうなるんだろう。

入ったら地獄に連れ込んで行かれそうないやなデザインだった。


「センス悪いなー。死神さんの家にもこんな門はないわ」


少しひいた気分になりつつ、家主の同意をえず地獄門(小)を通って小屋の中に入る。入って真っ直ぐリビングルームへいくと、床からギーギーと鳴り響く。ソファに腰をすえて寛ぎ静まり返った小屋の天井をじっと見ながら目を閉じた。


「……だろう……勝手に……やがって」

「……ふふふ……寝てますね」

「ううっ、お前らうるさい。耳元でギャーギャーと騒ぐんじゃないよ」


女の子二人の声で休息をお邪魔されたようシドは少し神経質になって身体を起こす。

シドを中心に両脇にはいまの会話に参加した二人が険しい表情でシドを睨みつけていた。いや、その中の一人は意図すら察し兼ねる女神の微笑みだったが。


「偉そうに言ってるけど、いったいあんたはだれ?! この不法侵入犯! 泥棒! 悪魔! 犯罪者!……ええっと、変態!」

「あのしろちゃん? 変態は関係ないよね?」 

「と、とにかくこいつが悪いのっ! 頭に角も生えているし。最も全身真っ黒にして「俺、悪魔。今から俺といいことしようぜ? むふふ~」って言いそうじゃん」

「……そんな使いようもない知識を吹き込んだ奴はだれだ。考え方が傾いてるぞ、おい」


呆れ気味でつぶやくシドの目の先に尖った耳がはいった。エルフ、らしかった。

二人は綺麗な黄色の髪色をしてて煩い方が髪が長い方、そして微笑んでいる方が肩まで伸びた方。うん、区別できた。と、シドは頷いた。


「ややこしい性格やら大人しげのこれぽっちもさいその喋り方、は予想するがたぶんユキシロに間違いないでしょう」

「なっ……! なんでわたしの名前をしってるの?」

「あらまあ、しろちゃんのお知り合いさんでしたか?」

「知らないよ! し、知るらないよ? 知っていたけ……ちょっと待っててね。すぐ思い出すから、くぬぬぅ」


己の記憶にかかった疑心暗鬼によって呻き声をだした。顔にハテナマークを浮かばせて悩みこんだユキシロに、

「そんなに考え込まなくていいさ。だってこんな格好でお前に出会ったのは初めてだから」と、シドは苦笑いで返した。


「えっと……おへんたいさん?」

「げ、なんで変態呼ばわりされてるんだ。俺」

「? おへんたいさんは『変態』と呼ばれても否定していませんから、変態とよばれてもいいんだなー、と」

「世の中に変態と呼ばれていいやつがいるんかい!! あ……、いるかも」


ふとそっち向け性癖がある顔見知りの顔が脳内から蘇る。身体をガタガタと震わせるぐらい嫌な思い出だったらしく、シドは一瞬黙り込む。


「と、とにかくそんな異名は欲しくないから止めろ。俺の名はシドだ。この名前も異名みたいなもんだけど、そう呼んでくれるとありがたい」

「シドさん、ですか。じゃシドさんは何でうちの家までいらっしゃったんですか?」

「自分探ししてるんじゃね? 全身真っ黒だし」

「……あのさ」

「しー、人を外見で判断しちゃダメですよ。事実だった、という可能性もありますので相手が傷つかないように」

「…………」


話がまったく噛み合わない現状に頭をかかえていものであった。もうこれ以上会話を続けるのも無理だと思い本論から入ることにした。


「俺は、ユキシロ、お前をとりにきているんだ」

「ええっ? なにそれ。あんたガチ変態だったの?」

「変態変態言うな。とにかくこれには細かい事情があって……」

「ダメですっ! 私が許しません」


急に立ち上がったマリは、先ほどの平穏な顔から親の敵でもみるような、怖い目つきでシドのことを睨みつく。一瞬の切り替えに驚いて反論もせず、彼女から説教される立場になった。


「わかっていますか?! お年頃の女の子をとるという意味」

「あ、うん」

「ぜんぜんわかっていませんね、シドさんは」

「いや、それが……」

「いくらなんでも世の中には『順番』というものがあって、慎重に進まなきゃいけないことがありますよ」

「そ、そうだね」

「そうだそうだー」

「二人が結び合うっというのは皆がいる式場で祝福される中で行われるべき、です」

「は、はぁ?」

「えぇ? わたし、結婚するの?」


マリが熱弁したことに追いついていけなかった二人。その前には満足したらしくいつもの穏やかな表情に戻ったマリがいた。


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