「い」ない世界

「・・・・・・忘れた」


顔に不自然な程風を感じた。撫でくり回すと、マスクをつけてなかった。

足早に玄関まで戻る。走ればまだ間に合う時間、玄関の靴を脱がなくても取れる場所に常備してある箱からマスクを取り出して走って向かう。


「おはよう」


靴箱の前で声をかけられた。


冬が好きだ。長袖を着ても不自然じゃないから。マスクをしても風邪の予防と胸を張れるから。


「・・・・・・お、おはよう」


勇気を振り絞って言葉を発するが、その頃には既にその子は他の子と楽しげに話してた。


私は不必要な存在なのだろうか。存在しなくても誰にも気づかれず、心配もされず。

他人に嫌われるのが怖くて自分の全てを隠す。顔に素肌、果ては性格までも。


まだ忘れることが出来ずにいる、昔ランドセルを背負った友達の発した言葉。


「そんな目でこっち見てくんなって」


顔の造りが普通より下なことは分かってたつもりだけれど、ここまではっきりとかれるのは初めてだった。

その日から他人からの目が気になりすぎてまともに人の顔が見れなくなり、友達はどんどん離れてしまった。

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